ニッケイ新聞 2010年12月1日付け
リオ州警察と軍隊の共同作戦により、誰も立ち入ることができない危険な〃麻薬取引の巣窟〃といわれていたリオ市北部ペーニャ区のヴィラ・クルゼイロに続いて、アレモン地区のファベーラが制圧された。車両の焼き討ちが相次いだ先週には日本食レストランへの客足が減ったり、金曜にはリオ日本人学校が休校にされるなどの影響も出たが、2014年のサッカーW杯や16年のリオ五輪を控え、「これで治安が改善される」と地元日系団体は胸をなで下ろす。その一方でリオ総領事館では、ファベーラからの逃亡者が市街地で犯罪を働く可能性を指摘し、「引き続き注意を」と邦人に呼びかけている。
突然、一発の弾丸が市内に所有するアパートの壁に食い込んだ。「2年ほど前ですかね」とリオ市南部の高級住宅街ボタフォゴ区在住の高橋好之さん(80、東京都)は思い出す。つい2週間前もすぐ近くの通りで渋滞している車を狙ってアラストーン(集団強盗)が起きたばかり。
今回のファベーラ制圧は貧困地区が集中する北部の出来事であり、南部は比較的治安が良好な地域として知られるがそれでも安心はできない。近くのサンタテレーザの丘はかつて高級住宅街だったが今は貧民街に覆われた。高橋さんのアパートの着弾も、その辺からの流れ弾の可能性が高い。
このサンタテレーザにはかつて日本人学校があった。「そこで働いていた教師から聞きましたが、夜市街地にあるアパートに帰るときに、しょっちゅう曳光弾が飛び交うのが見えたって。恐ろしかったと言ってましたよ」。機関銃の弾丸は通常、夜間でも着弾が確認できるように光を放つ曳光弾が混ぜられている。同日本人学校は現在、リオ日系協会の敷地内に移転し、元校舎を州政府に売り渡す交渉をしている。
先週金曜、ヴィラ・クルゼイロへの警察進攻を準備しているとの報道を受けて全公立校が休校、同日本人学校も休校を決めた。大越邦生校長は、「その時点において詳しい情報が入ってなかった。情報を収集するために一日休校にした。万が一を考えた。何も起こらないように」という予防処置だった。
先週から特に増えた幹線道路での検問に対応し、木曜から通学バスに教師を同伴させている。「教師が乗っていた方が子供は安心すると思いますので」と今週も続ける予定だという。
リオ総領事館によれば、一連の警察によるファベーラ占拠に関係した邦人被害の報告は受けていない。ただし、ファベーラからの逃亡犯、麻薬の大量検挙や販売ルート遮断により、麻薬の市中価格が上昇することが予想され、それに伴って中毒者が市街地で強盗を働く可能性があるとし、引き続き注意するようにリオ会議所などを通して呼びかけている。
リオ州日伯文化体育連盟の鹿田明義理事長(74、長野)は、今回の警察行動を「長い目で見てリオの将来にとってよい事。治安が向上する。アレモンは誰も立ち入りできない、危ないところだった。州と連邦がサッカーW杯や五輪を強く意識して思い切ってやったのだと思う」と高く評価した。