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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2010年12月3日付け

 リオのアレモンの丘にブラジル国旗が翻る姿に、どこか違和感を覚えた。「外敵」から失地回復したような雰囲気を感じた。少なくとも地理的には領土だったはずだ。まあ対空機関銃やバズーカ砲が見つかるとはまるでマンガの世界であり、ある種の治外法権だったのは間違いない▼UPP(平和駐留部隊)が13カ所まで増設され、押し出されるように11月に幹線道路での車両焼き討ちが激増した。いわばマフィア側の抗議行動だ。獄中から指示を出すボスを遠方に移管する処置への抗議でもあった▼この間に、10月から映画『トロッパ・デ・エリーチ2』公開があったことも伏線だった。リオ州警は映画中でマフィアとの汚職を暴かれ、それが国内映画史上最多観客数を記録するに至り、地に落ちた警察の威信を回復するには大々的なファベーラ進攻しかないとの機運を醸成したのかもしれない。だから「戦争」気分が漂い、「英雄」が強調され、その先にあの国旗があった▼だが先日のエスタード紙に「組織犯罪は存在しない。あるのは統治なき国家だ」とあったが、けだし名言だ。犯罪者の意味で使われるマージナルは、本来「社会の周縁に生きる人々」という意味だ。教育を受けず、まっとうな社会規則を知る機会もなく貧困に喘いだ結果、犯罪に走った人々ともいえる。その意味で、国家の統治不足、権力不在が犯罪組織という別の統治機構を生んだ、とエ紙は論じる▼ならばマフィアは外敵ではなく、「内なる敵」が外在化した姿だったのではないか。今回マフィアの大半は密かに逃げたし、貧民窟の大御所ロッシーニャなども控えている。物語は開幕したばかりだ。(深)