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大統領から国家表彰受ける=パラー州=トメアスーの小長野さん=森林農法の小農普及貢献で=ルーラ「日本人だからできた」

ニッケイ新聞 2010年12月10日付け

 「諸先輩の80年にわたる苦闘の歴史のおかげです」。首都ブラジリアの大統領府講堂で1日、国家統合省による「地域発展国家表彰」の授与式が行われ、パラー州トメアスー移住地の小長野道則さん(52、鹿児島)に第2部門賞がルーラ大統領の手から渡された。ニッケイ新聞の電話取材に対して、小長野さんは「15年間、小農のためにコツコツとボランティアをしてきたことをゴベルノ(政府)が見ていてくれた。この表彰は一生の宝です」と感無量の様子で感想をのべた。

 ルーラ大統領は賞を渡すに当り、小長野さんに「So podia ser japones mesmo」(これは日本人だからできた)と特別に語った。審査委員会のジョアン・サンターナ国家統合大臣や連邦下議らがいならぶ前だった。
 全伯から3部門に寄せられた500もの案件の中から各部門の1位、2位が表彰された。「アマゾン日本移民80年の歴史が生んだ森林農法はこの地域の持続的発展の解決法」と題された文章により小長野さんは第2部門の1位を受賞した。
 2歳で親に連れられてトメアスー移住地に渡った戦後移住者の小長野さん。家族は最初の5年間パトロンの下で胡椒栽培に従事し、途中から土地を買い農場を始めた。ランプ生活の中で胡椒以外に野菜、鶏と幅を広げていった。「10歳で野菜売りをしていました。長男として学校にはいけなかったから小学校5年でお終い。その分、仕事を通して農業を覚えた」。
 当時、トメアスー総合農業協同組合の農事部にいた故・坂口陞(のぼる)氏ら諸先輩からサンパウロ市に勉強に行くように指示され、JICAの研修も受け、徐々に知識を深めて森林農法を自分のものにしていった。
 15年前から森林農法の普及に力を入れ、付近のブラジル人小農家を始め、他州までボランティアで教えに行く。「種や苗を貸したり、近くならトラックやトラクターを出すこともある。苗とか貸しても返ってこないことも多いけど」と笑う。
 森林農法は小農家でも利益が上がる形態であり、トメアスー組合のジュース工場では日系、非日系問わずたくさんの小農から熱帯果実を買い上げている。「土地を売って町に出なくても生活できるようになると家族の輪が強まる。生活が安定すると盗まなくなり、この辺の治安も良くなる」。森林農法が小農に与える影響はまさに地域全体に及ぶ。「そのおかげで彼等はここで生活できるようになり、夢を語れるまでなった」と自分のことのように喜ぶ。
 こんな一般社会への無償の貢献が、大統領の心に強く響いた。小長野さんは「アマゾン移民の先輩が80年がかりでやってきたことの成果から学び、自分はその続きをやっているだけ。みんな苦労し亡くなってしまった。今は自分が組合で指導する側の立場になった。今度は自分が伝える番だ」との決意をのべた。
 さらに「いつも持ち出しで教えに回って、妻には本当に心配をかけた。今回は彼女も喜んでくれている」と何よりも嬉しそう。ルーラ大統領の言う通りかもしれない。
 2年前からアマゾナス州奥地マニコレ市の河畔住民にも森林農法を教えている。「農業したことのない現地の人が今は一生懸命やって成功している」。来年からJICA派遣による日伯共同事業で、ボリビアに森林農法によるカカオ栽培を普及することになっている。
 アマゾン移民の生み出した知恵が南米を救うという、新しい形の日系による社会貢献が始まった。