ニッケイ新聞 2010年12月23日付け
2万4千レアルは諦めます――。ブラジル日本移民百周年記念協会(上原幸啓会長)と同日本語版百年史編纂委員会(森幸一委員長)は21日午後、文協ビル内で記者会見を開き、「農業編」の調整役だった田中規子氏に対し、業務不履行を理由に返還を求めていた2万4千レの回収を断念し、欠損金として計上するという声明文(本日付け6面に掲載)を発表した。裁判にかかる費用・時間も検討した上で、編纂事業を進めることを優先した苦渋の選択。これで「田中規子問題」に一応の決着をつけた格好だが、事実上の〃泣き寝入り〃となったことは否めず、一連の百周年事業に大きな汚点を残すこととなった。
「社会的、同義的、人間的に考えて、絶対に許せない」―。森委員長は記者会見の場で顔色を変え、声を震わせた。
JICAの推薦もあったという田中氏が執筆・調整を担当した「農業編」は、09年末の刊行を予定していたが、田中氏の業務遅延から刊行時期を2度も延長。
再三再四、業務の履行と原稿提出を求めていたが、その社会人離れした「責任感の欠如」に業を煮やした同委員会は今年3月に田中氏を解任、調査費・原稿料執筆料として前渡ししていた2万4千レアルの返還を求めていた。
しかし、田中氏は労働法専門の弁護士を通し、「雇用契約は結んでいない」などとして返還を拒否、問題は泥沼化していた。
あくまで全額返還を要求していた協会側は、訴訟での解決も検討したが、時間や経費などの面も検討して上で、欠損金として処理することを決断した。
「もう一切関わりたくないというのが正直な気持ちです」と疲れた表情を見せる同協会の松尾治執行委員長は、「雇用契約を盾に金を返さないなんて…想像だにしなかった。今回の決断を(田中氏は)喜ぶでしょうなあ」と吐き捨てるようにつぶやいた。
遅延した「農業編」の代わりに「文化編(2)」を急遽前倒しし、何とか年内の刊行にこぎつけたが、編纂委は今回の問題の対応に追われる一年となった。
百年史委員会の現在の口座残高は、7万3163レ(田中氏からの返還があれば、9万7163レ)。2013年までに予定する全巻発行には、42万レアルの予算が計上されている。
今後も関係機関に資金協力を仰ぐことになるだけに、今回の決断の評価が協会関係者の心配の種となりそうだ。
声明書では、「2万4千レは小額ではないし、日系社会や協力機関からの浄財である(中略)『甘い』とお叱りを受けることは十分に覚悟」しているとしながらも、「今後とも日系社会、関係機関の協力をお願いしたい」と続けている。