ニッケイ新聞 2011年1月13日付け
「人生のどん底かのように見えるけど、サンパウロの通りは夢を追う人にとってチャンスで溢れている」——。先週、アメリカのオハイオ州ではYouTubeに流した美声で視聴者500万人を記録し、浮浪者からラジオ番組のアナウンサーへと転身したテッド・ウィリアムズさん(53)が話題になったが、サンパウロの通りでもそんな〃黄金の声〃が見出されている。9日付エスタード紙が才能を開花させる人々を紹介した。
ルス駅サロンのピアノで弾き語りを行っているのは、行き場を失い収容施設で暮らしているマリア・エレナさん(62)。2年前、施設近くの公共のピアノで練習し始めた事がきっかけ。ルス駅のピアノでコンサートを行ううち、その歌声に感銘を受けた人々の支援を受けて、CDの作成が実現した。アルバム収録はDio Come Ti Amo、Fascinacao、Aquarela do Brasilなど12曲。
音楽一家に生れたマリアさんは、もともとレストランなどでアルト歌手として歌っていた。若かりし頃に力強いアルトだった美声は、60代になった今ではソプラノへと音色が変わっているという。2人の息子を養うため他の重労働に取って変わっていたマリアさんの美声は、32年ぶりに観衆を魅了している。
夢を追ってバイーアからサンパウロへ上京して来たネルソン・シウヴァ・デ・ジェズスことボビ・ネットさん(41)も、2度の結婚生活の失敗から家庭を捨て、路上で暮らす生活を繰返していた。クラッキ、マリファナ、コカインに手を染め、一日中クラコランジア(麻薬の巣窟)にいることも多かった。音楽の夢実現のため2年前に自ら悪習を断ち切ってからは、作曲活動やカバー曲の演奏活動を進め、現在は、MPBのアルバム収録に取り掛かっているそうだ。
その他、雑誌や演劇などの制作活動を行う路上生活者もいる。路上で出回る雑誌Ocasを販売する詩人のトゥラ・ピラールさんや、路上生活者に関する脚本二つを仕上げた後、現在は恋愛ものを執筆中のセバスチオン・ニコメーデスさんが紹介された。サンパウロ市イタイン・ビビでは、こういった芸術をたしなむ路上生活者たちの作品を販売する、特別な競売会も開かれているようだ。
昨年、サンパウロ市の路上生活者人口は1万3666人。この人口は10年間で57%増加している。