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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年1月21日付け

 パラナ州ウライ市長の市村之さん(92、新潟県)が渡伯したのは2歳の時、なんと1920年だ。間違いなく生きているほぼ最古参の移民だ。しかも資産は5500万レアル(約27億円)というからただ事ではない。サントスで横一線に並び、ヨーイドン!とばかりに裸一貫で始めた移民人生のなかでも特異な成功者だ▼新潟県の農業研修生らを乗せたバスは、市村さんの案内でパラグアイの大農場を回った。一辺が18キロもある細長い地形で約1時間かかった。テーラ・ロッシャの細かい赤土が煙のように車内に立ち込め、息をするのも苦しいぐらい。シャツの中の下着まで赤く染まった▼戦後の〃ラミー王〃と呼ばれた時代、原料だけでなく加工まで手掛けるためにマギー社を買収。ある時、同社食堂で一人カフェをしていたら、市村さんが質素な格好をしているので、まさか社長だとは思わなかったセグランサ(守衛)に通行を止められたという逸話の持ち主だ。本人に確認すると、「あの時は止められてビックリした」と笑った。市村さんの飾らない人柄をよく示すエピソードだ▼5期目の市長となった現在、「90歳のじいさんに票を入れてくれるんだから、みんなが信用してくれてるんだろう」と笑う。かつては財政負担をかけないように市長の給与を返上し、自費で市内にアスファルトを敷いたこともある。「自費で学校を建てて市に寄付した」などの〃伝説〃があるが、本人よれば「していない」。市長の給与も現在はもらっているという。母県からの農業研修生に自分の農園を見せるのを楽しみにしている。これも一種の〃故郷に錦〃だ。(深)