ニッケイ新聞 2011年1月27日付け
【リオ市発】「悪魔にやられた。こりゃ、日本の地震と同じだ」。昨年正月のイーリャ・グランデ島の土砂崩れに続き、今年もリオで悪夢が蘇えった。800人以上の死者を出した今回の大水害に現地日系家族も苦しみ、そんな怨嗟の声が聞こえる。リオ山間部の被災地へ、サンパウロ市御三家の呼びかけで集まった心のこもったコロニアの救援物資をなるだけ早く届けたい—。そんな気持ちで、3トンの支援物資をトラックに積んで駆けつけたサンパウロ日伯援護協会役員らは被災地の厳しい現実を目の当たりにした。22日から現地入りした記者が現地の生々しい様子や、支援物資の到着を喜ぶ現地の声を伝える。(長村裕佳子記者)
昼前にリオ市内へ入ると天気は快晴。キリスト像が見下ろすコルコバードの丘のふもと、コスメ・ベーリョ区にリオデジャネイロ日系協会会館はあった。その日、同会館ではリオ州日伯文化体育連盟が総会を開催し、州内各地の22日系団体の代表らが集まっていた。鹿田明義理事長(74、長野)が6期目の再選を果たし、今回の水害被害における日系家庭への支援策が議題に上っていた。
援協の菊地義治副会長ら一行の到着で、懇談を交えた昼食会が始まった。菊地副会長が「サンパウロで集まった3トンの支援物資を届けに来ました。ほかに何が必要なのか現地まで見に来ました」と説明すると、日系団体代表者から感謝の声が挙がった。
死者、避難者数が多いノヴァ・フリブルゴ、テレゾポリス、ペトロポリスでは、日系家庭にも大小の被害が出ており、連盟ではこの被害に対する特別な支援を協議、被害が大きかった住居や工場などの修理費に貸し付け支援を行うことが決定した。しかし、鹿田理事長によれば、いまだ具体的な日系家庭の被害総数は把握仕切れておらず、「現在、各地域の日系団体に被害状況の調査をお願いしている」と対応に苦慮している。
その日、在リオ総領事館から木村元(はじめ)首席領事、磯崎正名領事も出席、本紙の取材に対しノヴァ・フリブルゴやテレゾポリスに食料の支援物資を運んだほか、現在、連邦政府と特別処置を検討中だと答えた。木村首席領事は、テレゾポリス市役所やリオ州知事官房副長官と話し合いを持ち、「お見舞いを言い、日系人への支援を頼んで来ました」と力を込める。また、岡山県総社市から支援活動に派遣された同市職員や国際医療救援団体AMDA看護婦の活動場所の調整にあたっているという。
一方、地元紙の報道で判明したテレゾポリスの日系人死亡者3人のうち、ファビアーナ・デ・パウラ・ムラカミ・ダ・コスタさん(39、二世)はチングア日系協会の佐藤マウロ前会長(34、三世)の妻の従姉妹であった事が分かった。もう一人の死亡者ナターシャ・ムラカミ・ダ・コスタさん(13、三世)がファビアーナさんの長女で、行方不明のライアーネ・ムラカミ・ダ・コスタさんは6歳の次女だった。
3人は10年以上住んでいたカンポ・グランデ区の自宅で被害に遭った。事故時、市内の別の場所にいたファビアーナさんの非日系の夫も同じく災害に巻き込まれて亡くなっており、一家全員が死亡している。
同家族の不幸な知らせに、グアピミリン市に住むファビアーナさんの父で一世の村上マサヒロさんはショックのあまり脳溢血で倒れ、20日まで入院していたという。親戚を襲った悲劇に、佐藤前会長は「大変な事故だった」と声を落とした。(つづく)
写真=現地日系団体と意見交換を行う菊地副会長(前列左)と鹿田理事長(前列右)ら地元関係者