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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年1月29日付け

 日本の裁判所にも誤審はあり、誤った判決で有罪となり刑務所に服役していた囚人が、後日になり無罪とわかり釈放されることが、いくつかあり新聞やTVの話題になるが、これの最大のものは、恐らく—幸徳秋水らの「大逆事件」であろう。明治10年(1910年)に発覚したこの事件は、幸徳秋水らが、明治天皇の暗殺を計画したとし逮捕、秘密裁判で被告26名のうち24人に死刑、2人に有罪判決を下したものだが、これは政府が企てた反社会主義の陰謀との見方が強い▼この24人のうち12人が天皇の恩赦で無期懲役に減刑されたが、幸徳秋水や森近運平、宮下太吉ら11名は1911年1月24日に死刑を執行され、幸徳秋水の愛人・管野すがは翌25日に刑死した。この事件の遺族らのなかには、墓を建てるのを警察から禁じられ、追悼の法要も隠れてこっそりの話もあるし、かなりきつい暮しを強いられたらしい▼こんな陰鬱な判決に対し、あの裁判は政府(桂太郎内閣)のフレームアップ(でっち上げ)による無政府主義者への弾圧だったの声が戦後に広まり、見直し論が強まり、今では慰霊祭も行われるようになったのは、一つの進歩と見ていい。先の25日にも「刑死100年を偲ぶ」とし、幸徳秋水の故郷・高知県四万十市で墓前祭があったと共同は報じている▼秘密裁判の公判記録の大半は戦災で燃えてしまい実物がないこともあり、学術的に裁判の公平さを見極めるのは眞に難しいけれども、あの日露戦争後の政府批判の高まりなど社会と政治情勢を勘案すれば、でっち上げ論も無視はできまい。(遯)