ニッケイ新聞 2011年3月11日付け
ジウマ大統領が今政権の優先事項の一つとする真相究明委員会の設立について、軍関係者が設立反対を訴える文書を国防相に送付していた事が明らかになり、大統領府が同相に説明を求めたと10日付伯字紙が報じた。
1964〜1985年の軍政下での人権侵害について調査する真相究明委員会設立は、ジウマ大統領が官房長官だった昨年5月に提案されており、大統領は前政権で実現しなかった委員会の設立を急いでいる。
ところが、1月3日に大統領警備の責任者であるGSI長官に就任したジョゼ・エリト・シケイラ将軍が、「政治家達が行方不明となった事は一つの歴史的出来事で、自慢したり恥じたりすべき事ではない」と発言し、軍関係者と行政担当者との間に温度差がある事が明白になった。
ジウマ大統領に呼ばれたシケイラ将軍は報道の誤りと弁解。閣僚は一枚板である事を示すため、ネルソン・ジョビン国防相やマリア・ド・ロザリオ人権擁護局長官らが委員会設立支持の立場を表明したりもした。
ところが、9日付Globo紙が2月に国防相に送付されたと報じた、陸軍作成、海軍や空軍も賛意表明の文書に、委員会設立への批判などが明記され、大統領府が説明を求める事になった。
問題の文書では、軍政時代は過去の事で、ブラジルはこの時代の問題を既に乗越えた、30年も前の事だから証人となる人々は死んでしまい証拠物件も失われている、などの理由を挙げ、今になって真相究明委員会を設立するのは無意味と表明。委員会が設立されれば、新たな緊張や混乱が生じるとも述べている。
一方、大統領府から説明を求められたジョビン国防相は9日に、問題の文書は昨年9月に作成されたもので、委員会設立問題はその後の3軍の長との話し合いで解決済みと釈明。国防省と軍、国防省と法務省ならびに人権擁護局の間に分裂や誤解はないと明言し、委員会の設立支持の立場も再確認された。
軍政下での人権侵害問題はブラジル独自のものではなく、国外では、2009年のチリでピノチェト政権時代の人権侵害問題に絡む元兵士や情報機関要員ら120人余りに逮捕状請求、2009〜10年のアルゼンチンでも軍事工科学校での拷問・殺害事件関係者や軍政時代の元大統領らの裁判開廷など、当時の責任を問う動きが続いている。
人権擁護局長官は軍政下の人権侵害問題についての言及を現時点では避けているが、サンパウロ州では、検察庁が軍政下の犯罪に関する2件の捜査再開の報道もある。北東伯でのアラグアイア関連の遺骨収集は目立った成果の報告がないが、サンパウロ市東部のフォルモーザ墓地で昨年発見された人骨が行方不明者のものか否かの鑑定など、真相解明への作業は今日も続いている。