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ジラウ発電所=工事の再開は目処立たず=Sアントニオでも混乱=背景に労働環境と労組抗争=どこへ行くブラジルの電力事業

ニッケイ新聞 2011年3月24日付け

 【既報関連】バスや乗用車など60台近くが焼かれ、宿泊所にも火が放たれる—。17日に軍や連警が介入して労働者退避となったロンドニア州内マデイラ川のジラウ水力発電所工事は、再開の目処さえ立たず、進捗の遅れは不可避の状態となっている。経済活性化計画(PAC)の中でも有数の事業計画中断の背景には何があったのか。

 15日夜起きた建設現場労働者とバス運転手との喧嘩を発端とする同発電所の騒動現場は、17日の労働者退避後も軍や警察による警戒継続でやや落ち着いたが、工事再開の目処は依然付かない状態で、同州労働裁判所は20日、カマルゴ・コレイア社らに労働者の解雇禁止と帰省費用の支払いなどを命じた。
 19〜23日付伯字紙によると、17日に労働者が退避したロンドニア州都ポルト・ヴェーリョでは、混乱を恐れて商店が軒並み閉業。18日には、同じマデイラ川のサントアントニオ水力発電所(以下SA)の建設工事も中断された。
 事件直後は、労働条件が約束と違う、賃金調整に応じないなどの苦情が報じられていたが、大型工事のために地方からの労働者が集中する場所での抗争は後を断たない問題の一つだ。
 今回の騒動の要因として上げられているものの内、他と共通するのは、孤立した環境で仕事以外の楽しみも少ないなど、長期に亘って蓄積された不満。〃アマゾンの黄金卿〃の言葉を信じて故郷を離れた労働者にとり、決して高くない賃金で残業も思い通りやらせてもらえない、4カ月毎に5日の帰省休暇では家族訪問もままならないなどの不満が募っていた。
 それに輪をかけるのは州内に二つある労働組合とパラー州労組の三つ巴の勢力争い。ジラウとSAの工事従事者の属する労組は別なため、増収を狙う別の労組が後ろで糸を引いているとの声がある他、17日の労働者退避時にも近隣に潜み、退避しなかった労働者がいた、軍や警察もいる中での爆破は素人業ではないなどの供述もある。
 一方、パラー州の検察局が恐れているのは、ジラウ発電所と同様、紆余曲折を経て建設にこぎつけようとしているベロ・モンテ水力発電所周辺にも騒動が飛び火する事。出身地が遠い労働者が多いジラウと違い、近隣からの労働者が多いベロ・モンテは精神的要因が軽減されるというが、PACの大型事業の現場では売春その他の問題が多い事は周知の事実だ。
 日本での原発事故でエネルギー政策見直しが叫ばれ、水力発電所の重要度は増すとの見方もある一方、環境破壊や電力需要地までの距離が遠いなど、解決すべき課題が多いのも水力発電。ジラウでは従来からあった遅れは取り戻し不可の声も出始めており、広域停電対策も含めた電力事業は依然として難産のようだ。