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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年5月13日付け

 コロニア文学界の重鎮である安良田済さんが『戦時下の日本移民の受難』を発行した。徳尾恒壽氏、半田秀男両氏の日記を軸に、「不安と緊張の暗黒時代」(安良田氏)の証言として残すものだ。徳尾氏の日記は、本紙の前身である日伯毎日新聞で掲載されており、紙上での呼びかけに半田氏が応えた▼来社された安良田さんから本を進呈されたコラム氏がペンを渡してサインを請うと、困ったような表情をされた。目がほとんど見えない状態だと聞き驚いた。コロニアを書く、という作業に身を置いた責任を全うするかのような情熱と執念に、そして編集作業で支えた新井勝男さんに敬意を表したい。出版記念会が14日午後2時から文協ビル9階である。関心のある方は足を運んでみてはいかがだろう▼文芸同人誌『国境地帯』が25号で休刊となった。99年から年に2回発行を続けた。同誌で発行・編集人である菅沼東洋司(伊那宏)氏は、「笛を吹いても踊り手がいない」とコロニアの現状を嘆いている。ご自身の作品を整理したいという思いもあったようだが、やはり「移民小説の書き手が少なくなった」というのが編集の手を止めた大きな理由▼移民ならではの記録、体験が発信される時代は、ほぼ終焉を迎えつつある。卑近な例でいえば、本紙の読者投稿欄「ぷらっさ」への投稿も減る一方だ。移民体験、移住地の生活、異国での毎日は、それ自体が貴重な証言。是非ペンを執って欲しい。齢をねると記憶は確かでも、視力、集中力の低下から、書く作業から遠ざかるとか。そこに邦字紙の存在理由の一端があるともいえるのだが…。(剛)