ジェトロ(日本貿易振興機構)サンパウロセンターの澤田吉啓所長は毎日ひっきりなしに訪れる企業訪問者の対応に追われている。2001年から05年まで次長として同事務所で勤務した頃と比べてその数は4倍近く、昨年は550社以上に上った。以前は中国経済に視線が傾注されていた時代、「マクロで定点観測的」だったブラジルの視察も、「本格的な進出を視野に入れた具体的なもの」に変化しているという。その感触から「来年の進出数はもっと増える」と予想する澤田所長は、一方でブラジル市場の厳しさも指摘する。
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昨年6月の終わりに着任した澤田所長は以前勤務した時期に比べ、ここ2、3年の企業の姿勢の違いに目を見張るという。
「マクロな政治、経済等が中心だった質問が、下調べを終えたより踏み込んだ細かいご質問に変わり、こちらが困ってしまうこともあります」と笑う。
しかもその中にはコンピュータ周辺機器、自動車部品、食品などの業種で以前はなかった中小企業の姿も見られるようになった。
国内消費市場が膨らみ、ブラジルがモノを売る市場になったことが進出数増加の基本的な要因だ。
しかし、当然ブラジルへの注目は日本のみではない。ジウマ大統領就任後にはアメリカの動きが顕著になった。
ジェトロ・シカゴの眞銅竜日(しんどう・たつひこ)所長は「1月の就任式には国防長官、2月に財務長官が来伯し、3月には大統領。アメリカが短期間でこれだけの対応をした国は無かった。アメリカの対ブラジル政策が変わりつつある」と話していたという。
澤田所長は「今が対ブラジル外交の一番重要な時」とし、活発化する企業の活動に政治からの影響があることを期待している。
このほどサンパウロで開催された官民合同会議には外務省の中南米局長、各地の総領事等が出席したが、企業関係者から「『トップレベルの交流を深めて欲しい』という要望が強く出されていた」という。
日伯経済関係のパイプは、昨今活動が活発になっている日本経団連と伯全国工業連盟(CNI)との間での「日伯経済交流促進委員会」。もう一つは09年から年に2回両国で交互に開催している官側の経済産業省と開発商工省(MDIC)と間の定期協議。この2本立てで互いの協力関係、問題解決策が話合われており今後の活発な活動が期待されている。
ジェトロが把握する日系企業の数は380社ほどで、まだインドの約720社の半分強。中国は2万社と言われるが、澤田所長は「訪問企業の感触からすると今年はもっと進出が増えるのでは」と予想する。
今後進むと見られる進出に際しての心構えを聞くと、「1年や2年で黒字を出すのは厳しい。その上で検討しないと撤退にもなる。日本経済が非常に厳しい中、本社が最初から営業成績を求められる企業さんもあり、その場合は結構厳しい戦いになりますよ、とお話しすることなる」と指摘。
アドバイスとしては、「初めから大きく投資することが成功に繋がる」と話すが、「アジア市場と違う西洋式なシステム等の難しさがあり、法律通りには上手くいかないような広い意味でのブラジル・コストもある。競争激化で時間との戦いも分野によっては出てきている」と強調する。
「英語が通用するのは日本と同じ程度か少しマシなぐらい。システムでの正面突破でなんでも上手くはいかない『アミーゴ社会』で、人との繋がりで仕事も生れる。それにはポ語は欠かせない」と言語、ブラジル社会に精通した人材育成は避けて通れないとの見方を示した。(つづく、宇野秀郎記者)
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