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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年5月21日付け

 サンパウロもヒトやモノが増えすぎ日々—膨らむ。道は次々に造られ車だけが走り、人さまは歩くところがなく、隅っこをちょぼちょぼとー。言うまでもなく、古びたビルもダイナマイトでの爆破や由緒あるホテルも惜しまれながら幕を閉じていく。あの名門・オットン・パレスも閉店が決まったし、カンタレイラ街の中央市場の側にある俗称「トレメトレメ」も、哀しいけれども、取り壊しが進む▼今も、週末には中央市場へ買出しに出かけるが、改装されてから綺麗になり店々も賑わい、市民もすっかり惚れ込んでいる。階上のレストランも繁盛しショッピも美味い。だが—その昔、あの一帯は野菜の配給市場であり、南伯を始め中央会、バンデイランテスなどの日系組合が軒を並べ沖縄協会や日系の農産物商人が満ち溢れていた。さながら日系人の街だし、あの「トレメトレメ」も懐かしい▼邦字紙の駆け出しが、最初に取材に出向くのが農協であり、あの辺はテクテクと歩き「街ネタ」を拾ったものである。もう泉下に旅立った峰定実さんや沖縄の屋比久孟清さんなどを知り、いろいろと教わったのも、その頃だし、あまり立派ではないが日本人経営の食堂も、味よりボリュウームが若者には嬉しかった。そんな想い出の街もすっかりと消えてしまうのは、やっぱり寂寞たる思いが強い▼オットンにしても、今上陛下が、皇太子の頃に美智子妃と初めてブラジルをご訪問になられたときに取材で詰めたのだが、2世と思しきバーテンがいたあの静かなバーの閉店も、やはり時の流れだろうが、なんともー寂しさはつきない。(遯)