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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年6月7日付け

 蕎麦は東京のものであり、今もTVの時代劇によく登場する「二八そば」は、江戸の頃からのものだし、あれは、そば粉8割に小麦粉2割を混ぜたことから生まれた言い方だが、いや—あれは一杯が16文だったので「二八」としたの説もありなかなかに複雑らしい。だが—神田の藪など江戸時代から続く蕎麦の名店は今も繁盛し賑わっている。なかでも藪蕎麦の味と香りは申し分ない▼あそこの「掻き揚げ」は天下一品だし、これを肴に一献傾けていると、かけ蕎麦が出てくる算段は眞に粋である。さながら江戸の匂いを噛み締めているような—そんな印象が胸底に生きる店ながら、ここサンパウロでは、美味い蕎麦屋がない—そんな気がする。60年代の頃には、市内にも手打ち(機械打ちだけれども、店で打っていた)があり、日本の味にかなり近く楽しみでよく通ったものである▼だが、その店も幕を下ろし、あの舌触りと香りとは縁が遠くなってしまったが、岩手県人会が、名物の「わんこ蕎麦大会」を開くと聞き先だってガ・ブエノ街の会館に意気揚揚と乗り込み自慢の味に挑む。竹の笊に蕎麦が乗り何杯食べても値段は同じだそうなので頑張ったが、結局は3枚で轟沈したが、それなりの味覚に満足し感動する▼さて盛岡藩初代の南部利直の好物だった「わんこ蕎麦」の大食いだが、本場の花巻市ではご婦人が320杯も平らげ優勝したそうだが、こちらの若い衆は49杯。お嬢さん方は29杯、老荘では37杯といささか振るわない。まあ制限時間の違いもあり単純評価は無理なのだが—それにしても、何とも残念であり無念に尽きる。(遯)