ニッケイ新聞 2011年6月16日付け
アルゼンチンのクリスチーナ・キルチネル大統領が9日、人間の母乳と同様の乳を出すクローン乳牛を作ったと発表したと同日付エスタード紙サイトなどが報じている。
4月6日に誕生し、『ベゼーラISA』と名付けられたジャージー種のクローン牛は、同種の子牛の平均の約2倍に当る45キロ以上もの体重があったため、帝王切開で取り出された。成長すれば、人間の母乳に似た乳を出すという。
アルゼンチン政府によると、人間の母乳と似た乳を出す乳牛の開発は世界初で、同国の国立農業先端技術研究所(Inta)の研究員と国立サンマルティン大学(USAM)の研究員と共同で実施されたという。
ベゼーラISAは人間の母乳に含まれるプロテイン(タンパク質)の構造を記録した2種類のヒト遺伝子をクローニング(遺伝子組み替え)したことによって誕生している。
タンパク質とは生物に固有の物質で、アミノ酸が多数結合した高分子化合物であるが、人工的な高分子のように単純な繰り返しではなく、順番がきっちりと決まっている。各生物が体内で作るたんぱく質はそのアミノ酸の種類と順番がDNA(遺伝子)に暗号で記述されており、遺伝子情報はその形質に関係するタンパク質の設計図であると考えられている。
類似のタンパク質であっても、生物の種が違えば暗号の内容が異なるが、ある生物の遺伝子情報を他の生物に組み込めば同様のタンパク質を作ることが可能になる。
同研究所の研究員によると、今回組み込まれた遺伝子は乳児に抗菌・抗ウイルス効果のあるヒト遺伝子のラクトフェリン遺伝子とリゾチーム遺伝子で、鉄分などを含むより栄養価の高い牛乳を得ることができるという。
アルゼンチンはここ数年、馬や牛でクローニングを行っており、より良い生産性の高い品種開発に取り組んでいた。
クリスチーナ大統領は今回の快挙は世界初だと発言しているが、豪州のニュースメディアなどによれば、中国では、北京の中国農業大学研究チームによって既に人間に近い母乳を出す乳牛が約300頭作られており、今後3年以内にこの特殊な牛乳を商品化して販売する予定だという。
中国の研究チームは自ら味見をしており、普通の牛乳より甘さが強いとコメントしている。