ニッケイ新聞 2011年6月18日付け
2010年12月に米州機構(OAS)人権委員会が、1972〜74年に左翼活動家ら62人が行方不明となった件の責任者を処罰すべきとした件について、国家総弁護庁が16日、恩赦法の見直しはしないとの意向を明らかにしたと17日付伯字紙が報じた。
1964〜1985年の軍政下の迫害は未だに全容が解明されていないブラジルの歴史の恥部だが、国家総弁護庁が恩赦の対象は政府や軍関係者にも及ぶとの最高裁判断に従う姿勢を見せた事は、政府が恩赦法見直しを断念した事を意味しており、軍政時代の迫害責任者処罰の可能性はなくなる。
軍政時代に政治犯として捕えられ、迫害によって死亡したり行方不明となったまま真相が知られていない人はいまだに数百人いるとされるが、米州機構が取り上げた62人は前記期間中にアラグアイア地方で行方不明となったゲリラ達の数。
政治犯とみなされた左翼活動家はサンパウロ州などにもいたが、米州機構人権委員会がアラグアイア地方のゲリラを取り上げたのは、期間や人数が特定し易かったためだろう。
ただ、米州機構がブラジルに責任者処罰を申し入れたのは、恩赦法で軍政下での人権侵害問題に関する恩赦は全ての方面に適用と決めてから13年も後の事。米州機構は遺族に対し物心両面の賠償金を支払うようにも命じているが、最高裁は、恩赦法の対象には為政者や軍人も含まれているとの判断を下していた。
最高裁が恩赦法の見直しを否定した事に対してはブラジル弁護士会が不服を申し立てていたが、今回の国家総弁護庁による最高裁判決尊重の意向表明は、政府としての恩赦法見直しはない事を意味している。
軍政下の迫害で死亡したり行方不明となった人については、ジウマ政権も、詳細を調べるための真相解明委員会の設置を積極的に働きかけている最中。恩赦法の見直し断念が委員会での調査後の賠償問題などにどのような影響を及ばすかは不明だが、弁護士会は、官房長官時代のジウマ大統領が真相解明と責任者処罰を支持する文書を送ってきた事と矛盾すると批判の声を上げている。
フェルナンド・H・カルドーゾ元大統領も、左翼活動家として投獄経験もあるという理由でジウマ氏を大統領に選んだ国民の期待を裏切る行為だと発言しているが、南米諸国で軍政時代の為政者や軍人の処罰が進む中、ブラジルだけは責任の所在を明らかにしないままの状態が続く事になる。
人権擁護局長官は米州機構の申し入れには誠実に対応するつもりだと発言しているが、迫害者に対しても恩赦を定めた法が有効とされる中、賠償金の支払いで米州機構に良い顔をするつもりなら、国内外から批判が起きる可能性も出てくる。