ニッケイ新聞 2011年6月23日付け
電力会社の原発はほぼ5千万キロワット(KW)だが、今夏のピーク時には、福島第一が廃炉になり、福島第二、東通、女川、東海第二が全滅し、浜岡が停止、柏崎刈羽が3基再起不能で停止、さらに全土で定期検査中の原発が運転再開不能のため、事実上1300万KWしか稼働しない状況にある。
この頼りない原発より、資源エネルギー庁が公表している産業界の保有する自家発電6千万KW(昨年9月現在)のほうが、はるかに大きなバックアップとしての発電能力を持っている。
「原発の代替エネルギーとして自然エネルギーに転換せよ」という声が圧倒的に多いが、日本人が〃快適な生活〃をするために使っている電気の大半を生み出しているのは、現在は火力発電である。この火力発電は、日本においてきわめてすぐれた世界最高度のクリーンな新技術を導入しているので、何ら問題を起こしていない。決して原発が、電力の大半をになっているのではない。原発は事故続きで、4分の1も発電していない。
自家発電をフルに活用すれば、このすぐれた、クリーンな火力だけで、「まったく現在のライフスタイルを変えずに、節電もせずに、工場のラインを一瞬でも止めることなく」電気をまかなえる。これは、将来、自然エネルギーが不要だと言っているわけではない。多くの人が抱いている「自然エネルギーで代替しなければ原発を止められない」という現在の反原発運動の固定観念は、まったくの間違いである。
将来のエネルギー構成をどうするべきかについてはここで論じないが、原発を止めるのに、選択肢の一つである自然エネルギーは、今のところ特に必要ではない。つまり、産業界を味方につけて自家発電をフルに活用し、原発を止めることのほうが、もっと重要である。
週刊朝日6月10日号で私が特集したように、週刊朝日の記者が各電力会社に取材した結果、興味深い電力需給について裏の構造が明らかになった。全国で、電力会社が他社受電の発電能力を秘密にして、取材にも答えようとしなかった。
特に九州電力だけは、「発電設備ごとの能力の内訳は公開していない。経営戦略情報なので教えられない」と、火力・水力・他社受電(自家発電からの買い取り)・原子力の内訳さえも答えないというトンデモナイ非常識な態度をとった。この九州電力が、原発を動かせないので夏に電力不足になる、と言い立てている。
なぜ電力会社は、これら当たり前の事実を隠そうとするのか、という疑問から、ここで重大なことが明らかになった。
それは、「電力会社が自家発電をフルに利用すれば電力不足が起こらない」、この事実を国民に知られると、産業界からも、一般消費者からも、「送電線を自家発電の民間企業に解放せよ!」という世論が生まれる。そして制度が改善されて、誰もが送電線を自由に使えるようになると、地域を独占してきた電力会社の収益源の牙城が崩れる。送電線の利権だけは、何としても電気事業連合会の総力をあげて死守する必要がある、と彼らは考えている。9つの電力会社にとって、福島原発事故を起こした今となっては、原発の確保より、送電線の確保のほうが、独占企業としての存立を脅かすもっと重大な生命線である。そのため、自家発電の電気を買い取らずに、「15%の節電」を要請するという行動に出てきたのである。
したがって日本人は、「自然エネルギーを利用しろ」と主張する前に、「送電線をすべての日本人に解放せよ!」という声をあげることが、即時の原発廃絶のために、まず第一に起こすべき国民世論である。何しろ、送電線が解放されて、安価に送電できなければ、自家発電ばかりでなく、自然エネルギーの自由な活用もできないのだから。
原発廃絶は、反原発運動の自己満足のために実現されるべきものではない。産業界も含めた、すべての日本人のために進められるべきである。