ニッケイ新聞 2011年6月25日付け
ブラジルの6月は「祭り」が多い。寒い季節なので焚き火が盛んだし、誰が思いついたのか「火風船」と日本語にしたバロンが、夜空をゆったりと流れるのも、水無月の風物詩であり、真っ赤に燃える焚き火を囲みながらピンガを片手に空飛ぶ炎を眺めるのは、この南米の大陸にふさわしく、とても長閑な情景をかもしだし、真に気持ちがいい▼こんな風趣に富む昔からの暮らしの「遊び」も、近頃は火事の危険があるとかで都会では禁止されているし、サンパウロのような都心では、もう焚き火もバロンも見当たらないのは、いささか寂しい。それでも、奥地では今も父祖からの伝統を引き継ぎ、50メートル超の櫓を造り盛大に燃やし、大いに語りカシャッサの酔いも楽しんでいる▼笠戸丸移民を率いてサントスに着いた上塚周平は「ブラジルの初夜なる焚き火祭りかな」と詠み、これがブラジルでの日本人初の句とされる。フェスタ・ジュニーナから横道に入りすぎたけれども、この6月は、ブラジルの「出雲の神さま」であるサント・アントニオ祭りー「恋人の日」を始め次から次へと「祭り」がいっぱいあり、取り分けカトリック信徒たちは忙しい▼一昨日の23日は「聖体祭」(コルプス・クリスティ)の大祭だった。あの花模様の綺麗な花道を通る聖体行列は、厳かながら美しい。そしてきのう24日はサンジョアン祭り。夜、田舎風に装った若い人たちが集まり、大きな焚き火をし、大鍋でピンガに香料や砂糖を入れて煮るケントンを呑み、歌い踊って恋を語る「縁結び」のような風景も多くなり、もう6月祭りの幕引きも近い。(遯)