ニッケイ新聞 2011年7月9日付け
終戦後の勝ち負け抗争を描いた話題のブラジル映画『Coracoes Sujos』(国賊、ヴィセンチ・アモリン監督)が完成し、初めての先行上映会が7日晩、サンパウロ州カンピーナス市近郊で行われた第4回パウリニア映画祭の開幕式として行われ、招待客1500人が鑑賞した。日本からは主演の伊原剛志が来て伯字紙各紙が競って扱うなど、一般公開前にも関わらず大きな話題を呼び、一部では期待が高まっているようだ。
伊原剛志が演じる主人公タカハシは写真館を経営しており、妻のミユキ(常盤貴子)は日本語教師。日本戦勝を信じる愛国的な指導者から元軍人暗殺の使命を授けられてからタカハシの振る舞いがどんどん変化し、夫婦生活がおかしくなる。変貌していく夫との愛を貫こうとする妻の葛藤が映画では描かれる。
奥田瑛二らハリウッド映画『硫黄島からの手紙』の有名俳優が多く参加しており、構想7年、制作費も750万レアル(約3億9千万円)かけている。フォーリャ紙7日付けによれば伊原剛志は取材に答えて、「この映画はきっと日本で成功するに違いない。あちらでは誰も知らない驚きの物語だ」と語っている。
エスタード紙7日付けによれば、アモリン監督は「エスタード・ノーボ体制と戦後において、日本移民は国旗掲揚、日本文化や日本語教育を禁止された。その社会背景からすれば映画の中で日本移民役にポ語をしゃべらせることはありえない。だから日本の俳優を選んだ」と説明する。
加えて「映画は純粋に過去のものであってはいけない。現代の反映でもある。日本移民への抑圧があの抗争を生んだように、今の中東の原理主義にも同じ力が働いている。少数民族の表現の自由が狭められ、社会的な不寛容が強まることは危険」と社会派監督らしい発言もしている。
UOLサイト記事によれば伊原は開幕式で「エウ・アモ・オ・ブラジル」などとポ語を交えてあいさつし、観客を喜ばせた。「良く完成された映画」であり、セリフの9割が日本語という特殊な〃武器〃を弄したブラジル映画と高く評価しつつも、同記者は「映画には入り込めない距離感がある」とし、「鑑賞後に残る感動を重視すべく全力を尽くしているように見えるが、実際に見終わった後、会場は奇妙な違和感に襲われ、けっして感動の渦ではなかった」とも記している。
なお同映画の広報を担当するプリメイロ・プラノ社によれば、本格的な一般向け上映は11月以降で、それ以前にコロニア向けの先行上映会も検討されているという。