ニッケイ新聞 2011年7月15日付け
ブラジルの家事労働者の需給バランスに変化が見られ、共働きの家庭などでは生活様式の変更が迫られそうだとのBBCの記事を14日付フォーリャオンラインが転載した。男女同権などが社会的に浸透してきた事で、近年とみに進んできた女性の社会進出に新たな壁が出現した事にもなる。
BBCの記事は、家事労働希望者が減り、給与も高くなった事で、ブラジル社会に生活様式の見直しや習慣の変化などの大きな反響が生じるとの専門家の見解で始まる。
記事の中でいう家事労働者はいわゆる家政婦や乳母に当たる人達のようで、家政婦がいる事を前提に生活を組み立て、働きにも出ていた中流や中流の上に属する人達は、従来の様な生活は出来なくなるというのだ。
家政婦を希望する人が減り、その給与は一般労働者以上に上がっている事は6月24日付フォーリャ紙も報じているが、2011年の場合、全国602万人といわれる家政婦の学歴は、中卒以下75・4%、高卒23・3%、大卒1・3%。
正式雇用は28%で2002年の19%より増えたが、就学年数が段々伸び、その他の分野での就労の機会も増えている事などから若い人の数が減り、平均年齢は35歳から39歳に上がっている。また、最低賃金程度の給与の人が多いため、9年間の実質給与上昇率は、一般労働者の25%を上回る43・5%。
その上、国際労働機関(ILO)が6月に家事労働者にも一般労働者と同じ権利を認めるという原則導入を決めたため、就労時間や有給休暇、退職金積み立てなどの条件遵守で、雇用者の負担は現在以上に重くなる。
このような諸条件の変化で、住み込みや毎日来ていた家政婦の存在を前提にした生活から、家政婦解雇か週何日かの契約に変更した場合、子供の世話も含めた家事の再分担や、夫婦の一方が不在の場合、相手の役割もカバーするなどの工夫が必要となるのは当然だ。
女性解放の声と共に職場や社会へ進出した人々が、解放の第二段階といわれる時期に生じた新たな障壁にどう対処するかは、各人、各家庭で違うだろうが、共働き家庭などが期待する事の一つは、行政側の努力。
全日制の保育所や幼稚園を増やし安心して働けるようにとの要望は低所得層からが多かったが、これからは、家事労働者の減少や給与高騰で現在の生活様式維持が難しくなる中流以上の家庭からの要望も増えそうだ。
602万人という数字にはお抱え運転手や庭師などは入っておらず、同種の家事労働者も加えた場合の総数は700万ともいわれているブラジル。雇用者側の生活様式見直しで解雇され、他の職を探す必要に迫らせる人も出てくるはずとの予想も出ているのは皮肉な現象ともいえそうだ。