ニッケイ新聞 2011年8月5日付け
「リーマンショック、東日本大震災を経て、日本では日系人が下層化し、子供の劣化が目立つようになってきた。なんとか手を打たないと大変なことになる」。愛知県一宮市で特定非営利活動法人「交流ネット」の理事長をする林隆春さん(たかはる、61)は先月末に来伯し、そう警告を発した。「日系人をこのまま放置したら、8割が生活保護受給者のベトナムやカンボジア難民と同じようになるかもしれない」とし、何らかの対策を打つ必要があることを広く知ってもらいたいと強調した。
「リーマンショックの前には各地に日系社会のリーダーがいたが、日本政府の帰国支援でみなブラジルに帰ってしまい、日本の日系社会は大きなダメージを受けた。その後、帰伯するか迷っていたリーダー層の人も大震災で帰ってしまい、止めを刺された感じです」。林さんはせっぱ詰まった様子で、そう語った。「今はリーダー不在、底辺で日系人が蠢いている状態。3年先、5年先には困った傾向が出ている可能性がある」。
さらに「デカセギは雇用の調整弁と言われてきたが、彼らのおかげで企業の海外移転が抑えられてきた面がある。経済危機が深刻化して海外移転が進んだ現在、彼らは用済みになった人たちのように扱われている」と真剣な表情で代弁する。
在日日系社会がなぜ劣化したかに関して、「ブラジルでは雇用格差が激しく、技術がないと良い職業に就けないことをみんなが知っている。だから技術がない人は帰りたくても帰れない。そんな人が日本に溜り、生活保護に頼る傾向がある」と分析した。
A県の国際センターにおける昨年の7カ月間で、ブラジル人が精神的問題を相談した内容の集計結果をみせた。全704人中、過半数を19歳以下の未成年が占めており、「特に学習障害と発達障害の相談が多いのが目立った」と特記されている。
林さんは「国際センターに来所した人だけでこれだけ多くの精神的問題を抱えたブラジル人、とくに若年層がいた。水面下の見えないところで蠢いている凄まじい数の人たちのことを思うと、胸が締め付けられるような重苦しさを感じる。本当に可哀想でなりません。そして10年後の日系社会の劣化は避けられない。これ以上、日系人を追い詰めていった時、何が起きるか・・・」と嘆息する。
在日ブラジル人の状況を良くする鍵は政策にあるとし、「日本はいつまでたっても外国人政策しかない。でも、本当に必要なのは移民政策。いずれ自分の国に帰る外国人向けの政策ではなく、外国人を永住者として地域に根付かせる施策、たとえば日本語教育や職業訓練、就職支援の3点セットに力を入れる方向性こそが必要だと思う」と力説する。
「ブラジルの県人会に一つ提案がある」という。「大震災で被災した地域からの若者流出が激しい。県人会が母県と話をして、そういう場所に在日ブラジル人を送り込んで、農業振興を図ることはできないか。1年ぐらいかけて農業の職業訓練を受けさせ、若者が流出した休閑地で農業をしてもらう。在日ブラジル人が間接雇用から自営業者に切り替わるチャンスだといえないか」と呼びかけた。