ニッケイ新聞 2011年8月18日付け
上院での環境保護法審議を前に、「ブラジルの農業にとりアマゾンは金の卵を産む鶏」である事を認識するようにとの米国の研究者の呼びかけなど、森の大切さを訴える記事が続いている。ジウマ大統領の環境への取り組みを評価する人は52%との世論調査もあるが、2012年のリオでの環境会議も含め、ブラジルの環境への取り組みに世界が再び注目している。
下院が5月に承認した環境保護法改定案は、上院での審議次第で、大統領裁可か下院差し戻しかが決まるが、農業用地確保や小規模農家保護の謳い文句に反する研究結果が16、17日付フォーリャ紙に連載された。
現行の環境保護法は、水源地や川の両岸から30メートル以内の森林伐採を禁じ、急斜面や丘の頂上などへの家屋建設を制限するなど、具体的な規定を定める事で環境破壊や災害発生を抑える効果を持っているが、これが農業用地拡大阻止や、小規模農家が開拓した農牧地を削る事に繋がるなどの理由で提出されたのが審議待ちの改定案だ。
改定案は、川岸の伐採禁止区域半減、傾斜地の家屋建設許可、保護区の制定も州に委任、法定アマゾンは80%など、植生毎に決められた原生林保存率も、小規模農家の開拓地には適用しないなど、様々な面で既存法を緩めており、有識者達の間では、上院が改定案を否決または修正し、下院差し戻しとなる事を期待する声が高い。
16日付フォーリャ紙記載の米国生物学者トマス・ラヴジョイ氏による「ブラジルの農業にとりアマゾンは金の卵を産む鶏」との発言も、同法改定への警鐘の一つだ。
アマゾンの原生林が破壊されれば雨(水資源)が枯渇し、農業は成り立たなくなるからで、同地域の原生林破壊率は、南部や南東部がセラードに化す限界とされる20%に程近い18%。森林破壊で雨が減れば農業や経済活動にも影響が出るというトマス氏は、ルーラ政権の保護地拡大などを高く評価し、効率化を図れば農業用地拡大のための環境保護法改定は不要との見解を表明した。
また、17日付フォーリャ紙は、サトウキビ畑と森林とでは二酸化炭素の吸収量が17倍も違うとの研究結果を記載。
〃世界環境デー〃の6月5日付エスタード紙なども、自然林は大豆畑以上の価値ありと訴えているが、経済効果に二酸化炭素吸収や災害発生抑制効果なども加味すれば、森林破壊は真綿で首を絞めるようなものである事は明白だ。
ブラジル単独でのアマゾン保護は困難かもしれないが、地球温暖化防止のためにブラジルは二酸化炭素排出量を積極的に減らすと官房長官時代に国際会議で公約したジウマ大統領は、環境保護法改定案の不法伐採者への恩赦の項目は裁可しない意向も表明済み。Ibope調査では52%が大統領の環境への取り組みを評価している中、上院での保護法審議が近づいている。