ニッケイ新聞 2011年8月24日付け
当然のように日伯、ブラジルと表記しながら「伯剌西爾」の由来を知らない。最初の2字は中国語の巴西(パーシー)の発音からきているとか。あとは当て字のような気もするが。当て字といえば「舞楽而留」▼皇国移民会社の水野龍の作とも言われ、移民募集の名コピーだろう。「舞って楽しみそして留まれ」というわけだ。金の成る木とあいまって楽園のイメージを掻き立てられる。笠戸丸移民到着を報じた「コレイオ・パウリスターノ」紙も(何を根拠にか知らないが)「文盲はいない」と書いているから、文字通りの美辞麗句に舞うどころか踊らされたのだろう▼サンパウロ新聞の主幹だった故内山勝男氏は著書タイトル『舞楽而留ラプソディー』に使っているが、表紙には「ブラジルよいとこ誰いふた 移民会社にだまされて 地球の裏側来てみれば 聞いた極楽見た地獄」と移民哀歌を併載している。「憮」然とし、法「螺」に怒るも「辞」もできず襤「褸」まといて珈琲もぎ—とも当てられる▼本紙で連載、第一部が終了した『水野龍60年忌特別連載 大和民草を赤土に植えた男』の第4回。福沢翁が1869(明治2)年に出版した『世界国尽』には「武良尻」と表記される。この書き方もあったようだ。記事によれば、一般にブラジルのことを紹介した書籍としては初らしいから由緒は正しい▼南米大陸の地図に目を転じれば、チリ、アルゼンチンを足に見立てると、ブラジルの北東伯あたりはお尻を突き出したような形。ペルーの古都クスコは、ケチュア語で「へそ」。位置的にはつじつまは合う。カーニバル時期には舞楽尻と当てようか。(剛)