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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年9月6日付け

 先の柔道世界選手権で日本の選手は大活躍したが、米国在住の福田啓子さんが、女性で初の10段を授与され「大喜び」—いや「恐縮至極」だそうな。福田さんは只今98歳ながらとても元気。さすがに道場の畳に独力では上がれなく、椅子に腰掛け弟子らの稽古を厳しく見つめる。週に2回は道場に出かけ指導に懸命なのが認められて米国柔道連盟からの10段位だが、これは眞に素晴らしい▼福田啓子さんは、あの東京オリンピックで「柔の形」を披露した実力者であり、講道館から女性最高の9段位を誇る「柔道家」である。アメリカを始めカナダや欧州などで柔道の指導と普及に尽力し、96歳のときには帰国し、講演会や「女三四郎」の山口香6段(筑波大学准教授)との対談にと活躍している。今はもう柔術・天心真楊流を知る人は少ないが、講道館創始者・嘉納治五郎が学んだのが、この真楊流なのである▼指導したのが福田八之助師範だったが、この人の孫が啓子さんなのである。講道館柔道の多彩な技には、この真楊流の影響がとても大きい。そんな関係もあってか、昭和10年に嘉納氏から「講道館を見なさいよ」の話が契機になり入門した—と啓子さんは語っている。そして東京五輪の乗富政子女子7段との「柔の形」があり、53歳のときに柔道普及のためアメリカに向かう▼と—柔道一筋を貫らぬき「柔道と結婚した」と述懐する啓子さんは「心の修行・人間としての修行。そのための柔道です」と凛として語る。そんな啓子さんに精神の老いはなく、心は晴れやかで青春に満ちどこまでも若々しい。(遯)