ニッケイ新聞 2011年9月14日付け
9・11の10周年報道を見ていて、まるで米国を世界最悪のテロの被害者に見せようとするハリウッド映画を観ているようだった▼3千人余の死者は少なくないし、飛行機をNYの象徴たるビルに突っ込ませるという手法は格別であり、被害者と遺族には強い哀悼の気持ちを捧げる。だからといって、これを理由に米国が中心になって大量破壊兵器の保有を疑ったイラク戦争と、ビン・ラーデンの引渡し協力に応じなかったため起きたアフガニスタン紛争を中東の民が許すとは思えない▼日本人の戦争責任を否定するわけではないが、真珠湾攻撃を誘発させた後、米国は日本の都市を徹底的に空爆して市民何十万人を殺し、沖縄戦に加え、最後には広島と長崎に原爆まで落とし、民間人も含めて殺戮の限りを尽した大戦時のやり方とよく似ている▼岸田秀の『歴史を精神分析する』(中央公論社、06年)には、「大東亜戦争は、アメリカとしてはペリーに降伏したことを認めようとしない日本をもう一度降伏させるための戦争であった」とある。第2次大戦の降伏文書に重光葵が調印したミズーリ号の艦上に、マッカーサーはペリーが掲げていた米国旗を掲揚させていたという▼巧妙なアングロサクソン的やり方によって、宗教や伝統から切り離された戦後日本人は意識を入れ替えたが、イスラム教という太い背骨の通った中東の民は数世代後に復讐を成し遂げるかもしれない▼このミズーリ号上の怨念の米国旗が、当地の勝ち負け抗争では詐欺師によって日の丸に入れ替えられ、純朴な勝ち組大衆から祖国勝利の随喜の涙を搾ることに利用されたのは歴史の皮肉だ。(深)