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「山が自分を呼んでいる」=登山家 前田英喜さん=記録映画に堂々〝主演〟=07年、山岳博物館を設立

ニッケイ新聞 2011年9月17日付け

 「山が自分を呼んでいるんです」——。9月6日、サンパウロ市シネマテカでドキュメンタリー映画『カミーニョス・ダ・マンチケイラ』(11年、79分、ガリレウ・ガルシアJr監督)の上映会が開かれた。映画の冒頭に登場した前田英喜さん(70、長崎)は、美しく豊かなマンチケイラの山々を背景に、カメラに向かってそう語りかける。60年に来伯して以来、半世紀にわたりブラジルで登山普及やルート(登山道)開発などの活動を行なってきた。聖、ミナス・ジェライス、リオ各州にまたがるマンチケイラ山脈の一角に、山荘「ポウザーダ・マエダ」を経営し、国内外から多くの登山客を迎える毎日だ。

 15歳で山岳クラブに入った。アンデス山脈を目指し、ペルー移住を志すも、同国は移民を受け入れていない。20歳で「近かった」ブラジルに移住した。
 ミナス州立の乳製品技術専門学校を卒業し、「レイチパウリスタ」(サンパウロ州乳製品製造会社)に入社。10年間製造課長を務めた。休みの日はマンチケイラ山脈を歩き回った。
 75年にカンピーナスの東山農場に移った後も通い続け、93年には標高2800メートルのイタガレ山からマリンス山までの縦走ルートを自ら作った。総距離43キロ、総コースタイムは約20時間だ。
 その後も前田さんは、標高の高い山のないブラジルに飽き足らず、96年にピスコ峰(6020メートル)、ウルス(6千メートル)、チリのパタゴニア山岳地帯などの南米の名峰を踏破する。
 08年にグローボTVのエコロジー専門チャンネルで特集リポートが放映され、今年は雑誌「マウンテン・ボイス」に特集記事が掲載されるなど、ブラジルメディアでも多数取り上げられ、登山家として注目を集めている。
 07年6月には、山荘の横に「山岳博物館」を開設。前田さんが昔使用していたドイツ製の装備や地図、コンパス、200枚に及ぶ写真を展示。
 87年に自ら発起人となり創設したカンピーナス山岳クラブでの活動を含めたブラジル、ペルー、アルゼンチン、チリ、日本の山々を巡った50年の登山生活が紹介されている。
 2010年8月には、ドキュメンタリー映画『カミーニョス・ダ・マンチケイラ』の収録のため、ガリレウ・ガルシア監督らスタッフが「ポウザーダ・マエダ」を訪れた。
 国内でもあまり知られていないマンチケイラ山脈の自然、歴史を紹介する内容で、35日間で40都市を回るロードムービー形式。農家、地理、生物、歴史学者など山脈に何らかの形で関わる人々のインタビューで構成されている。
 6日の上映会はサンパウロ州政府、文化局の後援を受け開催。収録途中で収集された資料や写真をまとめた書籍も販売され、多くの人が買い求めていた。 前田さん、妻の結芽子さん、娘のミリアンさんら家族が招待され、「良かったです」と満面の笑み。上映後は、観客や関係者に「マエダ!」と呼ばれ、「あなたは映画のメイン役者だ」との声もあり、前田さんは誇らしげな表情を見せていた。