ニッケイ新聞 2011年10月28日付け
【マナウス=児島阿佐美記者】「80周年を迎えた今日は歴史的な日になる」—。アマゾン高拓会の佐藤ヴァルジル会長(59、二世)は感慨深げにつぶやいた。ジュート栽培をアマゾナス州の一大産業に発展させた日本高等拓殖学校卒業生(高拓生)の初入植から80年を迎えた25日、1942年9月に陸軍によって農場や資産を強制接収され、また一部の入植者に迫害が加えられたことに対し、マナウス市の州議会で正式な謝罪が行われた。7回生の東海林善之進さん(97、仙台)や高拓生の子孫ら約200人が訪れ、アマゾナス州に新たな歴史を刻んだ。
高拓生は毎年集って親睦を深めてきたが、戦時中の不当な扱いを長年心に抱きつつも、式典以上の活動に発展することはなかった。渡伯した248人の多くは既に逝去し、現在の生存者は同市在住の東海林さんと千葉守さん、パラー州在住の清水耕治さんの3人となった。
親の苦渋を横目で見ながら「この歴史は忘れ去られてはいけない」と、01年に高拓二世らが中心となって同会を立ち上げた。80周年に向けて記念誌の制作を手がけるなど多くの事業を進め、パリチンス出身で親日家のトニー・メディロス州議を通して州政府に謝罪および、高拓生の歴史的意義を認めることを要求していた。
「議会の承認を得るのは簡単ではなかったが、ジュート栽培を受け継いだ現地人による日本人への尊敬は深く、そのことも大きく手伝った」と佐藤会長は喜ぶ。
式典には知事代理のジョスエ・ネット州議員、長沼始在マナウス総領事、アマゾナス日系商工会議所の牛田肇副会頭らが列席、高拓生事業の創始者故・上塚司氏の孫の芳郎さんも東京から駆けつけた。
今回承認された法案により、高拓生に対する迫害の正式な謝罪が行われたほか、本議会のあった10月25日が「絆の日」と制定され、高拓生のジュート栽培における貢献および歴史を同州の公立学校で教えることも義務付けられた。
法案発表の際は、参加者が立ち上がって大きな拍手が送られた。
トニー州議はあいさつのなかで「深刻な経済危機の時代に、ジュート栽培によりブラジルに富をもたらした高拓生の歴史が、今日からアマゾンの住民に広く知られる」と力を込めた。
ベラルミノ・リンス州議も「今日は我々にとっても大変意義深い日。『絆の日』の名のごとく、これから更に両国の絆が深まることを願う」と話した。
続いて、同州の発展に寄与したとして、東海林さんおよび千葉さんには名誉市民章が贈られ、上塚さんや佐藤会長および高拓生の未亡人らにも表彰が行われた。
東海林さんは壇上で「今回のことは一生の思い出になるでしょう」と話し、達者な姿を見せた。本紙の取材に対し「皆苦労したけど、それが報われました。子孫がよくがんばってくれたおかげです」と誇らしげに語った。
千葉さんの代わりに賞を受け取った孫の千葉ワルテルさんは、「祖父だけではなく、高拓生全員に頂いたものだと思っています」と感謝を表した。