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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2011年10月29日付け

 人情—人の情け—というものについてちょっと語りたい。今、タイは大洪水で首都バンコクの王宮前の広場も冠水、タクシン元首相の広大な邸宅も水に浸かるなど被害は広がるばかりだが、トルコでも大きな地震があり、死者が500人に近い。被災地には家屋が倒壊のため避難し、テントで暮す人々が多い。こんな苦しみに堪えるトルコの罹災者のために和歌山県の人々が救援に立ち上がっている▼「和歌山はトルコに格別の思い入れがある。できるだけの配慮をしたい」と仁坂吉伸知事は語る。こんな思いから医療チームの派遣や義捐金を募ったりして同国を支援したと表明したのだが、これには120年も昔の「エルトゥールル号」の事件がある。この軍艦は、日本の皇室の方がトルコ(正確にはオスマン帝国)を訪問した返礼として使節団を日本に派遣し、帰国の途についたところ和歌山県串本沖で暴風になり乗組員600人近くが死亡し沈没した▼このときに遭難現場に近い串本町の大島の住民らが小型の船で現場へ向かい生き残っていた69人を救助したのである。この事実は今でもトルコの歴史教科書に掲載され子どもたちもよく知っているそうだ。仁坂知事が触れた「格別な思い」は、1890年(明治23年)にあったこのの美談のことであり、もう1世紀も経つがトルコと和歌山を今も結び、絆となっているのは、とても美しい▼トルコは日露戦争で日本が勝利したときも大喜びし「東郷通り」や「乃木通り」ができるなどの親日国家だが、その背景には軍艦エルトゥールル号の佳話があるのをしっかりと牢記し忘れまい。(遯)