ニッケイ新聞 2011年11月18日付け
【群馬県太田市発=池田泰久通信員】在日外国人の多文化共生に向けた取り組みを紹介するシンポジウム「日系人の親子への心理支援・そのニーズと対策」が5日、群馬県伊勢崎市(主催・NPO法人多言語教育研究所)で開かれた。
パネリストを務めたミックメーヒル・カイラン大東文化大教授・同NPO理事長は「日本ではまだ、在日外国人の母語に対応した社会福祉や心理相談、教育支援が足りない」と指摘。
特に外国人を対象にした心理相談の重要性の認識がブラジルやペルー、アメリカなどの移民国家に比べて日本は低いとして「多文化を理解する外国人心理学者の受入れを進める必要がある」と強調した。
日系ボリビア人の臨床心理学者、田中ネリダさんも「日本社会について理解する心理学のバイリンガルの専門家がますます必要になっている。その立場を保障するためにも、安定した収入が得られる仕組みも重要」と訴えた。
これに関連して、ミックメーヒルさんは、在日外国人の社会福祉と教育支援を統合して支援する組織「多文化センター」の構想を説明した。
要点として、①各外国人の文化、言語に合わせた適切な心理カウンセリングを提供する、②同センターの管理は在日外国人自身が担う、③サービスは無料・低価格、または医療保険を適用する、④センターの外国人スタッフが専門家として妥当な給料を受け取る、⑤ニーズに合わせて日本国内の関係機関にセンターのスタッフを派遣する、⑥活動資金は、外国人が納める住民税・消費税に基づいて公の予算から工面する—を挙げた。
このセンターのモデルとして30カ国語に対応し、1973年から活動するアメリカワシントン州シアトルの「アジアカウンセリング・紹介センター(ACRS)」を紹介した。
同NPOは、子どもたちの母国語やアイデンティティーの維持などを目的に2000年に設立。5〜18歳までの子どもを対象に、日本語、英語、スペイン語などトライリンガル教育を取り入れている。
同県国際課と協働し、英語、スペイン語、ポ語、タガログ語、日本語での相談に応じる「スクール・ホットライン群馬」の活動も03年から続ける。
また文部科学省が日本全国で進め、学校に通っていない外国人の子どもを支援する事業「虹の架け橋教室」の委託を受けているほか、日系ペルー人子弟などが通う公立小学校での学童クラブ「ドリーム・クラブ」なども開いている。
シンポジウムでは、JICAの日系人研修員として来日中の臨床心理学者、原・田港(たみなと)・エライネさん、ゴイアス・カトリック大卒で在日南米日系人の心理支援を行うリタ・アグスタ・ペレイラさんもそれぞれの活動を語った。