ニッケイ新聞 2011年11月24日付け
「日本在住のブラジル人で55歳以上の人は3万人以上いる。彼らの年金問題は喫緊の課題だ」。世界各国に散らばる在外ブラジル人300万人を代表する組織「在外ブラジル人代表者評議会」(Conselho de Representantes Brasileiros no Exterior=CRBE)の会長に昨年12月に就任した篠田カルロス氏(55、二世)=愛知県在住=は、そう強調する。今月6日に開催されたCIATE主催の「コラボラドーレス会議」の機会に、年金や教育などの在外ブラジル人の課題について話を聞いた。
「55歳を超えると日本で仕事はない。長い人だと20年以上日本で年金をずっと払っていない人もいる。しかも、日本語がわからない。そういう人たちが今後どうなるのか、大きな問題です」と篠田さんは眉をしかめる。
世界にいる在外ブラジル人300万人全体の問題として、その70%は不法滞在のため居住国の公的サービスを受けられず、ブラジルの大統領選でしか選挙権が与えられていないなどの課題を挙げた。
また、中等教育と同等の職業教育を行い、ブラジルで通用するような専門資格を取得できるようなシステムを日本で実施できるよう、伯文部省にルールの設定を要請しているという。
「これまでデカセギは日本で農業、電気、車などあらゆる分野の仕事に従事しており、知識や経験を蓄積してきているが、ブラジルに帰っても資格がないと言われ日本での経験が生かせない」と篠田氏。「今後はそうならないよう、アシスタントではなく技術者として彼らがこちらで働けるように、職業訓練を行う必要がある」。
日本でブラジル人学校設置のためのルールを決め、教育省が認可する基準が設けられたのは99年。現在、日本にブラジル人学校は45校あるが、「政府は認可を出したら後は何もしない。きちんと学校で教育が行われているか監査もしない」という。
教育省は2万7千冊の教科書を世界中に送付、そのうち5千冊を日本のブラジル人学校や公立学校に通う子供達に送った。しかし篠田氏によると「領事館に留まったままで、まだ配布されていない」のが現状だ。
篠田氏によれば、岐阜県のブラジル人の7割が日本の高校に進学できないという。そのため、日本の公立学校できちんと日本語を勉強できるようにする必要があるのはもちろん、「理想的にはブラジル人学校、日本の公立学校の両方でバイリンガル教育を行えるようにすべき」と語る。自閉症など精神障害に苦しむデカセギ子弟の心理的サポートの問題もあり、「課題は山積している」と険しい表情を崩さない。
「移住者を送り出した国として、ブラジル政府は責任を取るべき」と表情を引き締めた篠田氏は、「山積している課題を解決するには長い道のり。でも誰かがやらないといけない。50年後に、日系ブラジル人が〝ジャポネース・ガランチ—ド〟と呼ばれるようになればと願っている」と思いを語った。