ニッケイ新聞 2011年12月22日付け
アルゼンチン最大のメディア・グループ、クラリンのケーブルテレビ局カブレヴィジオンの本部に20日、裁判所の命令を受けた軍警が侵入し3時間占拠した。20日伯字紙が報じた。
軍警の侵入はメンドーサ県の裁判所の命令によるもので、クラリン社の向こう60日分の会計監査が目的だという。裁判所の判断は、カブレヴィジオンのライバル局、スーペルカナルを所有するグルーポ・ウノから市場における不当競争が行われているとの告発を受けてのものだった。
ゲンダルメリア(アルゼンチン軍警特別部隊)の軍人約50人と裁判所が任命した監査係は、現地時間の20日朝10時(ブラジリア時間朝11時)、ブエノスアイレス南東部バラッカスにあるカブレヴィジオン本部に踏み込むと、9階の会計室に上がり、職員のカバンや引出しを開けさせ、同社の文書や管理職が持つ会計資料などの提出を求めた。軍警の滞在は約3時間に及んだ。
ただ、フォーリャ紙によると、この時、軍警による資料の没収は行われていない。同社広報のマルティン・エッチヴェーズ氏は「監査係は我々の提出した資料に目を通そうとしなかった。結局おどしが目的だったのではないか」とし、「これは政府によるカブレヴィジオンの乗っ取り行為だ」と政府を批判した。
クラリン社とアルゼンチン政府は、08年の農業従事者への課税問題で関係が悪化。カブレヴィジオンが2007年にムルティメディアを吸収合併してケーブル・テレビ市場の46%を占めるようになっていたこともあり、2009年にメディアの独占防止法を成立させたりして、クラリン社に圧力をかけている。
圧力の内容はサッカー中継の制限、ケーブルテレビやラジオへの民間局の参加枠設定、同社傘下のインターネット会社の営業許可取消しなど。クラリン紙本社に会計監査官200人が派遣されたこともあった。クラリン社は売上の61%をケーブルTVとインターネットで、22%を新聞や広告出版で得ている。
また、クラリン社を告発したグルーポ・ウノは政府寄りで、今年の公報収入は9倍に急増。同社幹部は、政府提出の同国唯一の新聞紙会社「パペル・プレンサ」国有化法案の支持者でもある。同法案は一両日中に上院で承認される予定だが、この会社の株の半分近くを所有しているのがクラリン社であることから、今回の軍警の侵入は法案審議に先駆けて圧力をかけるための行動だったと見る向きが強い。