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コラム 樹海

ニッケイ新聞 2012年1月10日付け

 鯨の話を少し。今は米仏豪などの反捕鯨運動のため日本の食卓に上るのも少なくなったが、1960年頃まではクジラも豊富で若い学生らにも手の届く安さだった。とりわけ真っ赤に染めた表の皮の中に輝くような真っ白な鯨のベーコンは美味く、あれをフライパンに敷き鶏卵を二つも入れて焼けば、もう立派なご馳走だし釜のご飯はあっという間に空っぽである▼あの最高の味を誇る「尾の身」は、超々高くとても貧窮書生には無理だけれども、それでも魚屋から仕入れてのビフテキの味に酔い痴れたのも懐かしい。鯨神社も鯨塚も方々にあるし、宮城県の「牡鹿くじら祭り」のようなものも多く、鯨はさながら日本の文化なのである。髭も骨も歯をも細工し、根付の装飾や江戸時代の「からくり人形」にも使われゼンマイの役を果たしたし、印鑑、足袋のコハゼ、扇子の要にも活用している▼あの黒船のペリー提督も日本に開港を迫ったが、もっとも切実だったのは日本沿岸にまで鯨を追ってきたので航海用の水や食糧の補給が必要だったの説があるし、あの頃の鯨油はランプなどの重要な燃料だったのである。もっと古くは、フランスのコスチュームや直径3〜4メートルもの幅広いスカートを穿くにも大きな丸い輪がいるし、これにもクジラの髭と骨が大活躍した▼と、クジラと人の繋がりは古く根強いのに近頃は「動物愛護」とかの殺し文句が蔓延り、日本などの捕鯨国はさっぱり元気がない。南極海での調査捕鯨が始まったばかりなのにもうあのシ・シェパードが捕鯨船・勇新丸の操業妨害だからまったくもって困ったものだし始末が悪い。(遯)