ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | 連載(下)=SA市長の誘拐殺害から10年=脅迫と謎の死続き弟は亡命=誰がなぜ事実を曲げた?

連載(下)=SA市長の誘拐殺害から10年=脅迫と謎の死続き弟は亡命=誰がなぜ事実を曲げた?

ニッケイ新聞 2012年1月20日付け

 【既報関連】大サンパウロ市圏サントアンドレ市長だったセルソ・ダニエル氏が02年1月18日に誘拐され、2日後に遺体が発見されてから10年。06年にフランスに亡命、昨年11月に帰国した弟のブルーノ・ジョゼ・ダニエル・フィーリョ氏への質疑応答を8日付エスタード紙が掲載した。
 同氏によると、亡命の主要因は、事件に関係した人物が謎の死を遂げる事件が続いた事と、事件後から続いた脅迫が子供達に及び始めた事だ。
 謎の死は、事件の3カ月後の誘拐役の男殺害に始まり、男をかくまった男性と男に事件前夜電話した市警捜査官、元市長らが夕食をとったレストランのボーイとボーイ殺害の目撃者、元市長の遺体を発見し警察に通報した墓地職員と続く。決定打となったのは、遺体には拷問の跡ありと証言したカルロス・D・M・プリンテス鑑定医の05年10月11日の死。
 一方、妻や子供3人との帰国は、現地では思うような職が得られず、08年の国際的金融危機以降状況が更に悪化した事と、親族や友人もおらず元の職場からも切り離され、孤独にさいなまされた事が主因だという。
 恐怖心は今もあり心の傷は癒されてないが人生は再構築すべきものという同氏も、順応に時間がかかり「再出発は大変」と本音をもらす。
 兄亡き後も親身にしてくれたリカルド・アウヴァレス元市議が労働者党(PT)から自由社会党(PSOL)に移籍した事もあり、帰国前にPSOLへの入党手続きを行った。ブルーノ氏は現在、サントアンドレ高等教育センターで経済学を教え、経営開発財団技師としても働いている。
 アウヴァレス氏が望む同市市長選出馬への言及はないが、元市長殺害事件の審理は遅れ過ぎで、現行法は、特定の弁護士事務所を優遇し裁判を無期限に引き伸ばす事を許していると指摘。汚職捜査や不正な富を貯えた人物の摘発、懲罰といった面も旧態依然と嘆く。
 現大統領府総務長官のジウベルト・カルヴァーリョ元補佐官がジョゼ・ジウセウ元PT党首に金を渡したと発言した事を検察に訴えたジョアン・フランシスコ・ダニエル氏は兄。兄弟は、元市長殺害は身近な人物が計画した犯行との検察見解を支持するが、協力を約束したPTは元市長拷問の事実はなく一般犯罪との主張を崩していない。
 「我々は元市長の死とPTの仲間の多くの象徴的な死とに向き合わねばならなかった」というブルーノ氏は、兄と共に05年10月の議会調査委員会に出席し、当時大統領秘書室長だったカルヴァーリョ氏と直接対決。委員会では前日、カルヴァーリョ氏も不正に絡んでいた可能性を示す盗聴記録があるとサンパウロ州判事の一人が証言していた。
 10年11月の陪審裁判で、検察のセンブラネリ判事はルーラ氏の選挙資金はサントアンドレからの金で潤ったと指摘したが、10年前の市長殺人は選挙年のスキャンダル第一弾かもしれない。