ニッケイ新聞 2012年2月4日付け
「歌をうたえば幸せになれる」—。そう自信を持って語るのは『ロンドリーナ白鳩コーラス』で23年間歌の指導を続ける田中宏枝さん(67、二世)=写真=だ。
ロンドリーナ市や近隣都市在住の約100人に週1回の指導にあたる。
創立は89年で当初の生徒数は13人のみ。自身が信仰する「生長の家」の信者を対象に教えていたが、06年から「もっと多くの人に」と広く募った。
平均年齢は75歳以上。「年々声は悪くなるというけど、70歳で歌を始めた人の声は、90歳の今の方がいい」と若返りの効果にも触れる。
サンパウロ州バウルー生まれ。6歳の時に原因不明の感染症に冒され、突然両目の視力が極度に落ちた。 「決して泣いたりしなかった。歌があったし、両親も心を強く育ててくれた。歌えば不自由なことも忘れられた」。負けん気の強さと、歌への思い入れは誰にも負けなかった。
バイオリンを習い、バウルーで音楽を学んだ。以来、生長の家の聖歌隊や中学校で歌の先生を務めてきた。
「楽譜も読めなかった人達が上手になる様子が好き。教えてきた生徒は数えきれない」
日本移民百周年を記念してロンドリーナを訪れた医学博士の日野原重明氏が講演を行った際、コーラス団で歌を贈った。「即興で日野原氏が指揮を執った。皆感激でした」
一葉の写真がある。昨年10月に100歳の誕生日を迎えた日野原氏に送るため全団員で撮った。皆の笑顔はこぼれんばかりだ。
「日野原先生は『増やすなら微笑みのしわを』と話された。私も笑顔を増やすお手伝いができるよう努力したい」。そう語った表情に穏やかな笑みが広がった。