ニッケイ新聞 2012年2月18日付け
こんな暑い日の夕暮れどきに湯上りの浴衣を粋に着こなし団扇を片手に近所の相棒と楽しむ縁台将棋は格別なものらしい。それほどに町裏の庶民もが親しめるのが将棋であり、囲碁はどちらかと言えば閑静な奥座敷でパチリ、パチリとなかなかに高貴な響きがする。あの聖武天皇も好んだらしく、その愛用の碁盤は日本最古のものだそうで正倉院にちゃんと現存する▼将棋は駒を動かすくらいならそんなに難しくはないのだが、アマでも有段者となるのは、よほどの才能と努力をしないと至難と云っていい。そんなアマの実力者も、プロの卵である3級か1級かの研究生にはまず勝てない。だから将棋の世界は厳しく名人や棋聖は雲の上の超人としか呼びようがない。そんな超が幾つも重なる将棋連盟会長の米長邦雄氏がコンピューター負けたのだから—これはもう驚倒するしかない▼将棋は敵から奪った駒を使えるし盤上の闘いは複雑であり、指し手も無限に近い。米長会長も若いころに江戸時代の詰め将棋に挑戦し、1週間も掛かってやっと詰んだと著書に記しているが、なんと650手以上もの攻め方があり苦労も多かったらしい。そんな米長会長が、113手で「参った」のだから何とも仰天である▼勿論、このコンピューター「ボンクラーズ」も凄い。1秒に1800万手まで読めるのだから人間の頭脳を上回るのかもしれない。尤も、プロ棋士の幹部は「ボンクラーズはプロ棋士の7段クラス」と辛口だし、来年に予定されているとかのプロ棋士との勝負がどうなるのか—今から気掛かりで致し方がないのである。(遯)