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群馬県=デカセギ子女支援するブラジル人=心理学者カーラ・バホスさん=文化の相違超え心理相談=「全国から注目されている」

ニッケイ新聞 2012年3月9日付け

 【群馬県太田市発=池田泰久通信員】「私の人生にとって、挑戦の日々だった。日本の教育現場が抱えるさまざまな問題に触れることができた」——。昨年7月から群馬県内の公立小中学校や外国人学校で、ブラジルにルーツを持つ児童・生徒や保護者らに心理カウンセリングをしてきたブラジル人心理学者カーラ・バホスさん(40、パラナ州パラナヴァイ市出身)は、そう充実感をにじませる。10日の帰伯前に、9カ月の研修成果を聞いた。

 「日本の教育では、子どもの自律や環境への適応を重視する。一方、ブラジルでは親が子どもに干渉し、危険や困難から守るという考えが強い。そうした根本的な認識の違いから、教育現場ではさまざまな問題が起きている」と印象を語る。
 例えば、真冬日の体育の授業。日本の学校では、子どもたちは薄着の体操着で元気よく外に飛び出していく。
 しかし、一部のブラジル人の保護者にとっては、それが理解し難く感じる。そのため「うちの子だけは厚着をさせて」などと学校にクレームを言ったりして問題になることがある。
 カーラさんは、外国人児童の担当教諭らとともに、そうした親のとまどいなどにも耳を傾けながら、日本文化への適応や理解を促した。
 海外の地方自治体の職員らを日本の各自治体に派遣する総務省と財団法人自治体国際化協会の「協力交流研修員事業」の一環で昨年5月、来日した。
 日本語や日本文化について研修を受けてから、同県太田市の公立小5校とブラジル人学校2校で、児童・生徒、教員、保護者ら合わせて176人、計431件のカウンセリングに応じた。
 相談内容は、両親の離婚や別居などによる家族関係の悪化、家庭内暴力、学校への適応問題やいじめなど多岐にわたった。アルコール中毒の親から虐待を受け、自殺の危険性もあった女子中学生のカウンセリングも粘り強く続けた。 
 同市のバイリンガル教員の日本人男性は「限られた期間に、外国籍の子どもたちの自尊心や勉強への意欲向上、学校と保護者間の関係改善などに力を尽くしてくれた。今後も長期滞在できるポルトガル語を母語にしたこうした専門家は不可欠で、学校側からの要望も強い」と話す。
 研修を通じて、日本のブラジル人の心理サポートにおける課題も分かったという。一つは、母国ブラジルで行われている心理療法や精神判定のノウハウの必要性だ。
 「例えば、日本語が分からないブラジル人の子どもや保護者に、日本式の心理、知能テストを用いても正確な診断はできないのではないか。すぐにでも再来日し、ポ語による診断方式の一式を持ち込みたい」と話す。
 同県の国際課では、「外国からの研修員が日本の各自治体の課題解決に参画するというのは、全国的にも先進的な事例。特にカウンセリング分野での受け入れはほかに例がなく、全国からも注目されている」としている。