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〜OBからの一筆啓上〜テレビ三昧=吉田尚則(パウリスタ、ニッケイ新聞元記者)

ニッケイ新聞 2012年3月14日付け

 退職後、近郊に終の陋居を構えてからは日々漫然と過ごし、テレビばかり見ている。それも、もっぱらNHK観賞である。
 家内にはとうに呆れられながら、ふと思った。日本にテレビ時代が到来した半世紀も前、評論家の大宅壮一はテレビ漬けの国民を前に「一億総白痴化」と嘆いたが、「オレも白痴化久しいな」と、といって忸怩たる思いも抱かずに見続けている。
 1996年であったか、NHKの日本語衛星放送がブラジルでも始まったときは、ひそかに快哉を叫んだものだ。いかにも心癒される母国の情景が毎日、いわばアオ・ヴィヴォで茶の間に飛び込んでくるのである。移民にとっては福音でないか、という言葉さえ浮かんだ。
 あれからもう15年。当初の感激は失せてしまい、昨今では不満を感ずることすら少なくない。視聴者は我儘で強欲なものだ。
 われわれが見ているNHK日本語衛星放送は「ワールドプレミアム」と称されるが、これはNHKが日本国内で毎日放送している「総合」をはじめ「Eテレ(教育テレビ)」や「BS(放送衛星)1」などの中から、たぶん海外視聴者に受けそうな番組を寄せ集めた切り貼り編成だから、どこか建てつけが悪い。
 ミニプログラムや風景などで各番組をつなぎ合わせているのだが、同じ〃接着剤〃が毎日何度となく繰り返し使われるので、どうも粗雑な感じを拭えないのだ。
 不満といえば、在外視聴者には「放送権の都合でお見せできません」という、例のテロップである。国際的なスポーツ試合などはまったく放映されないばかりでなく、ニュースとしても扱えないようだから、いわば欠陥商品にも等しく、視聴者間からはつとに悪評高いのである。
 また在外視聴者にとってはほとんど関心外の、天気予報や交通情報の多さについても辟易としてしまう。「ワールドプレミアム」という情報サービスの品質を損なうものだから、どこか投げやりな編成作業という印象を払拭するためにも、これは消去すべきだし技術的にも可能なのではないか。
 アラを探せばきりがないが、もう一言。先日、ニュース9の男性キャスターが「野田総理をスタジオに呼んで」と語っていた。一国の総理にはいま少し敬意を払う表現があってしかるべきであり、この件で少し思った。
 最近の日本では、大衆迎合のポピュリズム政治が蔓延しているといっても過言でない。そのような社会にあっては、マスコミが第四どころか第一権力を握って世論を操作していると評されるのだが、NHK職員にも言葉の端端から権力者の驕りの響きがうっすらと感じられるのである。よくよく自戒してもらいたいところだ。
 そのいっぽう、ニュース解説などでは紋切型の建て前放送を旨としているらしく、事態の本質、本音のところがどうもよく視聴者に伝わらない。この点では民放のほうが納得のゆく解説が少なくないのであるが、このあたりについてもいま少し踏み込んだ報道ができないものだろうか。
 批判ばかりに終始したが、ドキュメンタリーのほうは秀逸な作品揃いで、さすがNHKと感動を誘われることもたびたびだ。また朝ドラ「カーネーション」は尾野真千子というはまり役の演技派女優を得て、久しぶりに楽しませてもらった。