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米国より生産経費が高いブラジル=競争力は弱まるばかり=小手先の政策では解決せず=化学産業の赤字過去最高

ニッケイ新聞 2012年3月20日付け

 ブラジルの工業製品の生産経費は米国より高いと18日付エスタード紙が報じた。ドル安レアル高で輸入が増え、工業界が苦境に陥っているのは周知の事実だが、工業不振は小手先の政策では解決できない状態だという。

 「工業生産にはブラジルより米国の方が有利」—ブラジルに進出している多国籍企業の前で商工会議所のガブリエル・リコ氏がこう語った。国際的な金融危機以降、経営改善に努める米国企業が生産効率を高める中、ブラジルでの生産経費は米国以上という事実は、ブラジルが国際的な競争力を失いつつある現実を再確認させる。
 ドル安レアル高による輸入増加と輸出困難が工業界を窮地に立たせている事は広く知られ、18日付エスタード紙でも、工業不振の最大の要因に上げられている。
 だが、MBアソシアードスによれば、ブラジルではエネルギーや人件費などの生産に不可欠な要素も米国以上に値上がりし、国際的競争力を更にそいでいるという。
 ブラジル工業界の生産経費は過去5年間で46%高くなり、3・6%増に止まった米国と大きな差。
 近年急速に成長したブラジル経済は、新製品開発や生産ライン立ち上げに必要な知識や技術を持った労働者の不足に拍車をかけ、中間管理職の給与は米国の方が20%安いとまでいわれる実態も生み出した。熟練工不足は、訓練や人材確保のための経費の増加も招く。
 その上に、為替の不均衡や多種多様な税金による利益率の低下、原材料費の高さなどが生産経費を更に増大させる。
 欧米では、国際金融危機で大量解雇や生産性改善努力などが進み、工業界の競争力が上昇。米国の南カリフォルニアやテネシー、アラバマといった州は、世界的にも低コストで生産可能となったといわれるほどだ。
 ところが、ブラジルでは、2000〜11年に電気料金が248%上昇。同期間中の米国の電気料金は35・3%上昇で、ブラジルで46%上昇した人件費も米国では3・6%上昇に止まる。天然ガスも米国はブラジルの6分の1など、生産経費の実態は大きく変化している。原材料の調達や輸送経費も増大し、サンパウロ州では、バイア州カマサリ産の原料を買うより欧州から輸入した方が安いという現象さえ起きているという。
 最も競争力をなくしているのは化学部門で、昨年の貿易額は259億ドルの赤字を計上。赤字は1990年の15億ドル以降膨らむ一方で、ブラスケンやBasfなどの大手も、重税や為替の不均衡、高金利などの中、生き残りのための投資を欠かせない状態だ。
 サンパウロ州では繊維業で知られるアメリカーナス市で施設稼働率低下と18日付フォーリャ紙が報じており、小手先の為替対策などでは根本的な解決は困難な状態だ。生産経費増大で競争力がそがれ、高金利の融資で穴埋めなどの悪循環が繰り返されれば、工業界は益々窮地に追い込まれていく。