ニッケイ新聞 2012年3月21日付け
デカセギ子弟5人が前向きに生きる姿を描いた実録映画『孤独なツバメたち』上演会とシンポに参加して感銘を受けた。中でも映画出演者の若者が「俺たちは〃Vira-lata da Humanidade〃(人類の野良犬)だ」と舞台で語ったのに強いショックを受けた▼出演者3人がシンポで「両親に学校の行事に参加して欲しかった」「もし自分に子供がいたら日本には連れて行かない」などと発言したのを聞き、デカセギ子弟が置かれた家庭環境の現実を痛感した▼子弟の一人は「日本ではいくら努力しても自分達にチャンスはないが、ここでは頑張ればチャンスが掴める気がする。だから勉強する気になった」という青年の言葉からは、日本社会は無言のうちに「デカセギの子供は工場でしか働けない」という雰囲気をかもし出しているのかもと感じた▼彼らはポ語が片言しか分からない中、当地で勉強し直している。その苦労を聞くにつけ、まさに準二世(子供移民)そのものだと感じ、「歴史は繰返す」という言葉を噛み締めた▼日本では90年代後半以来、在日外国人の犯罪増加が問題視され、05年頃からは帰伯逃亡ブラジル人の問題がマスコミで大々的に取り上げられ、悪いイメージが定着した。この作品のように前向きに生きるデカセギ子弟の姿を描く作品が作られた意味は大きい▼心理学者の中川郷子さんは「帰伯子弟がみな、彼らのように前向きに人生と向き合ってくれればいいのに」と残念そうに語った一言も忘れられない。そんな彼らが70歳前後になった時、日系社会は移民150周年を迎える。それまで、「野良犬」でない自己認識を持てる人生をぜひ歩んでいて欲しい。(深)