サンパウロ州公立校=コンピューター授業促進へ=10年で55億レアル投資=問題は機械よりも教師
ニッケイ新聞 2012年4月6日付け
サンパウロ州では公立学校の授業の40%をデジタル化された教材で行うために、10年で55億レアルを投資する見込みであることがわかった。5日付フォーリャ紙が報じている。
サンパウロ州政府が4日に発表したところでは、州が選んだコンピューター会社が学校にネット環境を整え、教師に運用の手順を教える一方で、デジタル化された教材の開発を進め、授業の40%をデジタル教材を使って行うようにしたいという。
具体的には、教師が新しい内容を説明するときに5分間程度のビデオを見せたり、授業の内容に沿ったゲームを行ったりするもので、基礎教育課程の5年生から9年生と中等教育課程(高校生)を対象にしたいとしている。サンパウロ州としては、授業のコンピューター化で、学力が横ばいか下手をすると下降傾向もある教育現場の状況の改善をねらいたいところだ。
このプロジェクトにかける費用は10年で55億レアルで、これは州が12年度に学校の改築費に充てた予算の5倍の額となる。
サンパウロ州政府は13年からネット接続のデジタル黒板を導入し、その後に、持ち歩きが可能なタブレット型かノートブック型のパソコンを配布する予定だ。デジタル化する教材の内容は、教育局が決めたカリキュラムに従わせるという。
こうした州の取り組みに対し「新しい教材や内容で子供が授業に興味を持つようになる」「教師がコンピューターを使いこなせるようになれば授業の質が向上する」「学校のインフラ環境が良くなる」など肯定的な意見もあるが、教育現場からはこの州の方針を危惧する声もある。
国連教育科学文化機関(ユネスコ)のジョルジ・ヴェルテイン元ブラジル代表は、「国の内外を問わずコンピューターを取り入れた授業の調査結果はよくない」「教育の質改善には教師の育成が最も大切」とし、「現場の必要と教員養成の場の連携が必要だ」と語っている。また、授業の40%はデジタル化された教材で行うよう義務付けることは「教師の主体性を奪いかねない」し、「実態はクラス毎に違う」と危惧する声もある。
また、サンパウロ州教師組合(Apeosp)のマリア・イザベル・ノローニャ会長は「特定の民間企業が教材作りの責任まで負うのだとしたら、それは教育現場への侵入行為だ」とし、「州政府は深刻な教師不足という現状をデジタル化した教材で埋め合わせようとしているようにさえ見える」と批判した。
その他にも、「テクノロジーが授業の質を向上させるという保障がない」「この計画のための財源が教師の給与など、別の用途に使われかねない」などの理由からコンピューター授業の導入を疑問視する声もある。