ニッケイ新聞 2012年5月15日付け
13日付フォーリャ紙が、8500キロに及ぶブラジルの海岸線の侵食が進み、浜を喪失した海岸は120カ所に上ると報じた。実際には、サンパウロ州イーリャ・コンプリーダのように、侵食が起きていても環境省の統計に現れない海岸もあり、早急な対策が求められている。
「海が広がって、120の海岸を飲み込んでいる」との見出しで始まる同紙記事は、浸食が起きている海岸数を州毎にまとめた地図を掲載。北はアマパーから南は南大河まで、15州に赤いマルがつけられている。
環境省の統計では、侵食された海岸が最も多いのは23のペルナンブコ州で、サンタカタリーナの17、エスピリトサントの12、リオとアラゴアスの11などと続く。パライバ州の場合、浸食された海岸数こそ6と少ないが、海岸線の50%が侵食されており、実際の侵食被害は、全国の海岸に広がっていると見る方が正解のようだ。
この事実を表す例は目に付くような侵食が起きた海岸はゼロとされたサンパウロ州で、フォーリャ紙記事の書き出しは、サンセバスチオン市ポルト・グランデ海岸の住民や観光客が、防護壁に打ち付ける強い波を心配そうに眺めていると文だ。
また、カンピーナス大学の研究班が毎年観測を続けているサンパウロ州南海岸のイーリャ・コンプリーダも、2010年9月17日付本紙で、立ち木が倒れたり住宅が倒壊したりという被害が拡大していると紹介。この時点で島の海岸線は100メートル以上後退し、海に飲み込まれた家は数十軒。海岸から3ブロック離れた大通りの内側にある家を買ったアルマンド・ロッシャさんは、わずか3年後に向かいの家が倒壊したのを目の当たりにしたと報告された人物だ。
海岸線の侵食被害についてはサンパウロ総合大学やリオ連邦大学などでも研究が行われており、サンパウロ州サントスでは1976〜2007年の31年に、約12センチ海面が上昇。レシフェでは1947〜1987年の40年間に20センチ余り海面が上昇している。
海面の上昇は、大気温が上昇した事で海水が膨張するのに加え、南極大陸や高山などの氷が解けた事なども原因で、地下や海底の資源採掘や地下水の汲み上げで地盤が沈下しても被害が生じる。
また、海面上昇と共に波も段々高くなる傾向にあり、カラグアタツーバ付近のリオ—サントス街道のように、護岸壁の設営が必要な所もある。ウバツーバでは、昔は遠くで聞いていたはずの波の音がごく近くで聞こえるようになり、夜中に目をさますという人や、砂浜の侵食で屋根が傾いてきたキオスクもある。
環境に無配慮な資源開発や温暖化の影響はすぐには出ないが、ブラジルも、「温暖化のせいでわが国は水没する」と訴える太平洋の島国キリバスの話を他人事と受け流す事はできない事態になってきているといえそうだ。