ニッケイ新聞 2012年5月18日付け
20世紀のブラジル最大の政治家で、謎に包まれた生涯を送ったとされるジュトゥーリオ・ヴァルガス元大統領(在位1930〜45年、50〜54年)の全3巻から成る伝記の初巻が発表され話題となっている。17日付伯字紙が報じている。
「ジェトゥーリオ」と題された伝記は、ブラジル最大の文学賞であるジャブチ賞を2度受賞した伝記作家リラ・ネット氏が、2年半に及ぶ調査の末に書き始めた大著で、発売されたばかりの第1巻は「若き日から権力を掴むまで」との副題で、1882年の南大河州での出生から1930年に軍事クーデターで政権を掴むまでが描かれる。
13年発売予定の第2巻では、1930年から45年の「暫定政権からエスタード・ノーヴォの独裁政権まで」を描く。14年発売予定の第3巻の副題は「国民選挙による復活から自殺まで」で、1945年の失脚から50年のブラジル初の国民投票での大統領復帰を経て、在任中の54年に自殺を遂げるまでが描かれている。第1巻初版は、通常の6倍の3万部が印刷された。
リラ・ネット氏による伝記は、元大統領が遺した日記や書簡、既にある伝記、様々な機関に残された書類、関係者の証言などを元にしたもので、通常の伝記とやや異なり、資料からの引用を多用している。資料の詳細さは17日付エスタード紙、フォーリャ紙が共に絶賛している。
だが、過去に、小説家のジョゼ・デ・アレンカール、歌手のマイザ、シセロ神父の伝記を書いた際に物議を醸したこともあるリラ・ネット氏の著書らしく、今回の伝記でも問題となりそうな領域に踏み込んでいる。
それはヴァルガス元大統領の政敵が攻撃材料とした二つの殺人事件で、ひとつは15歳のときに進学先のミナス・ジェライスのオウロ・プレット高校で起きた殺人事件、もうひとつは、南大河州の政治家だった頃に起きた先住民女性のレイプと酋長の殺人。大統領は共に無実とされているが、種々の資料を新手法で解析し、その無実を証明するとの弁に、元大統領の恋愛に関する伝記を発行している南大河州の歴史家ジュレミル・マシャド・ダ・シウヴァ氏は、「いっぱしの歴史家に成りすまそうとしている」と酷評。これに対しリラ・ネット氏は「無実だというのはこれまでもいわれてきたが、起訴状も含む具体的な書類を明示して証明しようとした初の意欲的な試みだ」と自信を見せている。
「ヴァルガス元大統領の行った政治は功罪両面があり、現在もブラジルに大きな波紋を投げかけ続けている。一言では評価できない人物だ」とリラ・ネット氏は語っている。