ニッケイ新聞 2012年6月9日付け
「イパネマの娘」などで知られる『ボサノバの神』ジョアン・ジルベルトが10日に81歳を迎えるが、それと時を同じくして伝記が発表される。6日付フォーリャ紙が報じている。
昨年の生誕80周年のコンサート・ツアーを体調不良でキャンセルしてしまったジョアンだが、81歳の今年は伝記本で再びスポットライトが当たりそうだ。最新の伝記となる「ジョアン・ジルベルト」はコザック・ナイフィ社の発行で、本作は「オ・バランソ・ダ・ボッサ」(1968年)や「シェーガ・デ・サウダーデ」(1990年)と並ぶジョアンの貴重な伝記となりそうだ。
この本はサンパウロ総合大学(USP)ブラジル学研究所のヴァルテル・ガルシア教授が、編集者のミルトン・オオハタ氏やアウグスト・マッシ氏の協力を得て監修したもので、音楽家として歩みだした直後の1950年代のジョアン本人へのインタビューや音楽評、コパカバーナのナイトクラブでの演奏風景についての描写など、かなり貴重なものも含んでいる。
ガルシア氏らは、ジョアンについてすでに書かれたものや一般には知られていない事柄までを広く集めようとして、数々の音楽評論家や研究家、音楽家、報道関係者まで動員。バイーアですごした幼い頃のジョアンについての証言や、フランスやイタリア、日本での歓待の様子、設計や文学との関係まで、ジョアンとその芸術に関するありとあらゆることが盛り込まれているが、電話で話す時もモールス信号を使ったといったエピソードを集めた小話集にする意図はさらさらない。
監修者のガルシア氏は、「これまで謎めいたところの多かったジョアンについて解明する手助けになれば」と語っている。ガルシア氏は、ジョアンの有名なリズムの秘訣を探るべく、バイーアの音楽家のアデルバル・デュアルテ氏を訪ねて解説を求めたり、多くの人が偽名だと思ってきた1973年録音の「三月の水」でドラムを叩いているソニー・カーの存在を求めてニューヨークのマンハッタンまでの旅行も試みたという。
こうした証言の数々やこれまで公に出回ったことのない貴重な写真などの見どころも多いが、本作で最も目立つのは作品の批評で、特に音楽研究家ロレンゾ・マンミ氏によって1992年に書かれた「ジョアン・ジルベルトとボサノバ理想郷計画」は最大の読みどころだという。だが、米国や欧州、日本でのジョアンについての記述はあっても、彼が最も重要な作品の録音を行ったメキシコに関する言及が少なく、作曲家としての分析も甘いとフォーリャ紙は指摘してもいる。
この伝記『ジョアン・ジルベルト』は、全512ページの大著で、215レアル。