ホーム | 連載 | 2012年 | 座談会=ブラジルの日本食を占う | 第2回=ブラジル独自の戦略は=米国とヨーロッパの違い

第2回=ブラジル独自の戦略は=米国とヨーロッパの違い

ニッケイ新聞 2012年6月15日付け

 —「キッコーマン」の世界戦略では、非醤油圏と醤油圏に分けると聞きました。ブラジルは西洋文化圏ではあるけれども、日系人が多いがために醤油文化、もちろん酒文化もある。お米も食べる。非常にカテゴライズしにくいのでは。
 【森】
当初、進出した時は、目玉焼きに醤油をかけて試食デモをしたり、現地の味に近い商品を開発したり、いろいろ試行錯誤を重ねたのですが、値段もそこまで安くならない。
 —ブラジル産の醤油の味を真似ようとした。
 【森】
だけど近づければ近づくほど逆に、オリジナルの方が美味しい(笑)。その辺の葛藤があってうまく行かなかった。より現地に合ったものをと考えた〃変化球〃のちょっと甘いのがキッコーマンのオリジナルの味として特に日系社会に一時認知された。そこで今一度原点に帰ろうと考えた。
 例えばアメリカでの調査では、やはり歴史が短いせいか保守的なものがないので、何か新しいものを出せば割とすぐ飛びついてくれる。ステーキやバーベキューに醤油を使ってもらうと、バケツ一杯に醤油を入れて肉を漬け込む。焼いた後は捨てる。簡単に日本人一人の1カ月の使用量、1リットルくらいを軽く超える。
 —さすがアメリカ、豪快ですね。
 そこで、完全に現地に特化した提案をした。日本食より、チャイニーズやアメリカレストランに使ってもらう。そうするとアメリカ人が醤油をソースとして使って、その結果バリエーションが増えて、家庭に入るようになった。現在、アメリカの食卓の既に50%強には醤油がある。
 —それは驚きです。半数を超えている。
 一方、ヨーロッパでは歴史があるせいか、向こうの料理に使おうとして勧めても中々使ってくれない。むしろオーソドックスに外来の日本食をというものを伝えて行きながら、少しずつ変わる部分も含めて寿司、刺身から入った。
 —やはり保守的なわけですね。
 だからアメリカほど急激には伸びませんでしたけど、じわじわと浸透した。フランス料理・イタリア料理の隠し味に使われるようになってきた。だから1店当たり、一人当たりの使用量は少ないですが、徐々に広がっている。フランスではうちのスタンダードの醤油が認知されている一方で、さきほどの変化球というイメージで、かなり甘目の醤油を出したんです。本当に砂糖醤油に近いもの。
 —それはどんな料理に使うんですか?
 フランス人は鶏の照り焼きのようなものを食べるとき、ソースをご飯に混ぜて最後に食べるっていう傾向がある。もしかしたらこれご飯にタレのようにかけたらやるんじゃないかと考えた。「スクレ」っていう砂糖醤油。1本250ミリリットルで8ユーロ(約20レアル)位するんですけども、バカ売れした。
 —ご飯にかけるソースですね。
 ヨーロッパの場合は日本食から入りつつ、認知されたら現地食にも、という戦略が浸透してきている。最初に現地食に合わせようとしたらバリアが強い。
 —そのフランスでのヒット商品をブラジルでも販売するんですか。
 【森】
今は調査段階で、テストを行っていますが、実施地域でスタンダードタイプの醤油の人気を抜いている勢い。
 —それはサンパウロ市ではなく離れた場所ですか。日本文化というものの影響がない地域?
 【森】
日本文化の影響が殆どないし、海がなくて新鮮な寿司、刺身が食べられない地域。醤油がどういう風に使われるかっていうのをテーマに調査をしています。
 —なるほど。日本食の浸透度を見ても、サンパウロと他地域は別の国として考えなくてはならないわけですね。
 【森】
スクレ(極甘醤油)の反応は、普通の醤油の2倍人気。お客さんがついでにスタンダード醤油も一緒に買っていくから相乗効果で段々と底上げしていく。もうひとつ別のコンセプトでライトっていう減塩タイプは健康に気を使うお客さんが買う。この3タイプが、実験エリアで徐々に認知されているってのは非常にありがたい結果です。(つづく)

写真=フランスで爆発的人気を誇る「スクレ」。ブラジルでも出だしは好調だ