ニッケイ新聞 2012年6月16日付け
—久慈さんは「南部美人」の普及・販売のため毎年世界1周し、今まで21カ国廻られた。独自の日本酒文化がある国はあるんですか?
【久慈】アメリカでは早くからカリフォルニア酒を作ってましたし、台湾には独自の日本酒文化がある。でもやはりブラジルは特殊中の特殊で、東麒麟があるからお前はいらないよっていう所からのスタート(笑)。
—まあ、圧倒的なシェアを誇っていますからね。
【久慈】現地の味に合わせるっていうやり方は基本的に考えなかったけど、ブラジルの日本酒がやった意義っていうのは、日本食には日本酒を合わせるスタイルを作ってくれたことだと思っている。そのうえで、ちゃんとした日本酒をゆっくりと、ちゃんとしたレストランで楽しみましょうってスタンスを取ってきた。
—「ちゃんとした」っていう部分が大事。(笑)そのやり方は他の国の戦略とは違う?
【久慈】同じ。でもアメリカの日本人は逆でこう言われた。「あなたのもってきた南部美人はすごく美味しい。それはあなたが飛行機で持ってきたから。輸入された酒は全部美味しくない。頭痛くなる。防腐剤が入ってるから」
—それは本当ですか?
【久慈】日本では、大手の酒だろうがなんだろうが法律で禁止されてるから防腐剤なんて一切入ってない。だけども、アメリカにいる90年代後半の日本人たちは、輸入された酒には皆防腐剤が入ってるから美味しくないという先入観があった。
日本に帰ったら安く飲めるし要らないと。日系人、日本人社会に売ろうと思ったけど、「こりゃ駄目だ」と足踏みした。「知らない酒より『久保田』『八海山』さえあればいい」と言う。有名な酒しか売れない。
—変に頭が固いですね。
【久慈】その頃、アメリカではNYを皮切りに、NOBU(松久信幸氏が俳優ロバート・デ・ニーロの誘いで93年に開店)とかメグ(日本食チェーン店)、EN(高級インテリアながら居酒屋)とか、ファイン・ジャパニーズ・レストラン(本格的な日本料理店)が出始めた。出すのは和食のフュージョン。
—人気というかもう定着してますよね。
【久慈】そこに来るアメリカ人は「久保田」「八海山」防腐剤なんて知らない。日本酒はヘルシーだと思ってる。そういう人たちに飲んでもらって気に入ってもらった方を取った。日本人捨てるわけじゃないけど方向転換した。それが成功して伸びた。だから「南部美人」の9割は現地アメリカ人が飲んでる。
—完全に現地社会に方向転換したわけですね。
【久慈】その線でいくと、ブラジルの日系人社会は捨てられないんだけども、その中でも飲んでもらえそうな人が来るようなレストランをなるべく選ぼうと。美味しければ100レ払うって人が来るところしかない。
—真ん中を取っていく。
【久慈】ただその人達は説明しなくても、日本酒は日本食と一緒に飲むものだってことは分かってる。アメリカ人は日本酒って何なのかから話を始めなきゃいけなかったから大変だった。ブラジルはその文化があったからすんなり入りやすかったのも事実。
—「すき家」が進出しているのはブラジル以外だと中国とタイだからアジアですよね。ブラジルは日系社会があるとはいえ違う文化圏。比較した上での戦略ってのはあるんですか。
【高山】米を食べるという意味では、ブラジルは相当食べる。米食っていう意味では同じ。ただヨーロッパかアジアかで言うと前者でしょうけども、日系社会も大きいので融合している部分もあって色々な商品が出しやすい面もある。例えば今トマトソースとかチーズとか結構反応がいい。
—やはり、食べなれてるものが入っているのが安心するんでしょうかね。
【高山】日本にはないブラジル独自のメニューで「牛丼パステル」があります。これは一部の店では非常に人気がある。そういう形で敷居を低くして、ブラジル人にも味を知ってもらって、次に牛丼を食べてもらえばいいかなと思っています。
【森】ブラジルの牛丼のイメージを変えて頂きたいですよね。ブラジル人経営のレストランで牛丼頼んだら『牛カツ丼』がくる。まだ今でも、ブラジル人オーナーの日本食レストランで牛丼食べると、そっちが大半。
—へえ〜そうですか。気付きませんでした。
【高山】「寿司・天ぷら・牛丼」っていうような感じで並んで言ってもらえるようになれば、間違いなく伸びる。
—そういえば、ブラジルでは、天ぷらといえば、かき揚げですよね。スナック菓子みたいにみんな食べてる。
【高山】実はブラジル独自のメニューですけど「天ぷら牛丼」を出してる。ご飯、かきあげ、牛丼を重ねる。牛丼のタレが合うんですよ。
—どうですか評判は?
【高山】まだそんなに売り出してなくて、メニューに挟み込みでやってるレベル。今度メニューに出すので、変わると期待しています。(つづく)
写真=南部美人のボトル/牛丼パステル。米もしっかり入っている