ニッケイ新聞 2012年6月22日付け
—シュラスカリアに寿司や刺身、醤油はあるのに肉の味付けに醤油を使わない。
【森】一つは、まず今まで伝える側がちゃんと伝え切れてない部分があります。先ほど触れましたけど、数字を見るとまだ寿司刺身の日本食の域を出てないレベル。
—でも「すき家」を見れば、牛肉に醤油の味が美味しいと思われている。
【高山】少なくとも牛丼は醤油を使ってますよね。
—アメリカではBBQに醤油を使う。テリヤキはみんな大好き。「すき家」も売れてる。何故シュラスコは…。
【森】それは複合的な文化の一つだと思います。シュラスコ、フェイジョアーダは数少ないブラジル独自の食文化で、割と保守的。実は試験的にシュラスカリアで醤油と香草に漬け込んだ肉を焼いて出してもらっている。評判はいいけど、オーナーは「でもこれはシュラスコじゃない」といい顔はしない。
—そこはアイデンティティの部分で、ブラジル文化を守るということ?
【森】それは一例ですが、そういうオーナーの考えが一般的であれば醤油は寿司・サラダコーナーのみ。肉は岩塩。
—ブラジル人たるがゆえに防塁を築きたいのかな。アメリカのテリヤキ普及と何が違うのか。
【久慈】それ美味しいよね〜。
【高山】うちの照り焼きも結構人気ある。良く出ますよ。
【久慈】今回実施したお酒の会でもブラジル人、みんな知ってた。「酒と照り焼き最高に合うよ」って言ったら、皆で奪い合ってた(笑)。
—食の大家、北大路魯山人は「牛肉に一番合うソースは醤油」が持論だったとか。それは日本人の味覚でしょうけど、ヨーロッパでもアメリカでも、牛肉&醤油のコンビは旨いって思われてるのに…すごい謎(笑)。森さんの言う通り、ブラジル文化を守る、潜在的な何かが働いているとしか思いようがない。
【高山】変なとこで保守的なこだわりもある。ブラジルって本当にそういう意味では面白い。政治もそう。何か変な所で厳しくって、変な所でいい加減っていう。それと共通するんじゃないですかね。
(一同笑い)
—だけどまあ、そこは打ち破っていくということですよね。
【森】やるしかないですよね。
【高山】攻略しなければ、量的な展開ができませんから。これは多分世界中一緒なんですけど、どんどん味は分かるようになってきている。
【高山】我々もどんぶりにして、米も味付けも日本的にして売り上げが上がっている。それは誰が食べてもこっちの方が美味しいという評価と見たい。それが分かり始めると段々上がってくるんで絶対チャンスはある。
【久慈】同感です。今回「酒の会」やりましたが味が明らかに分かってきてる。昔と今は全然違う。醤油もどんどんキッコーマンに代わるはず。食材も変わってくると思う。楽しみですよね。
【森】高品質の方向に変われば落ちませんからね。それは絶対。質が落ちる方向へ変わるっていうのはない。経済が大きく下落しない限り。
【久慈】食べ物は一回美味しいもの食べると、不味い方には戻れない。お金がなくならない限りは、一旦美味しいもの食べたらそっちの方食べますからね。上げたらもう間違いない。酒もね。美味しいの知っちゃうと、不味いの飲めなくなる。
【森】醤油で言うと、正直選択肢がなく、手に入れられる範囲のみで使ってる人も絶対いる。そういうのは客観的に見てもハッピーじゃない。だから選択肢がある状態にしたい。今は某メーカーさんしか使わないとか、同じ味しかない状態。ワインのように食事に合わせて醤油も扱ってほしい。逆に言うと、全部同じってのはあり得ない。現地の味は否定しませんけども、ブラジルの日本食がこれから伸びていくんであれば当然、「多様化」の方向に行くのは自然の摂理。(つづく)
写真=シュラスカリアでの普及にも力を入れているが…