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電子機器受託企業Foxconn=労働問題に出る国民気質=多国籍企業の従業員待遇=自殺しない誓約書とスト

ブラジル日本移民104周年

ニッケイ新聞 2012年6月23日付け

 「フォックスコン」と聞いて、台湾に本社がある鴻海精密工業のブランド名で、中国などで生産活動中の子会社、富士康の名前でも知られていると言える人は相当な業界通だろう。ブラジルでは、昨年4月に中国を訪問したジウマ大統領が、コンピューターやタブレット用のパネル製造工場建設に190億レアル(120億ドル)という同社との商談を持ち帰った事が記憶に新しい。
 この商談は、昨年5月のタブレットへの免税処置導入などで準備が具体化し、7月にはサンパウロ州ジュンジアイにあるフォックスコンの工場でiPadの生産が開始された。
 ところが、この会社、世界最大手の電子機器受託企業という顔と共に、多数の自殺者が出るなど労働問題の多発企業としても知られている。

 低賃金で重労働

 日本語版ウィキペディアにも書かれているが、同工場の給与水準は低いようだ。富士康深セン(土偏に川)龍華工場での勤務体系が1日15時間、月の残業80時間超でありながら、月収はわずか27ポンドとか、もしくは米国メディアによればフォックスコンは月給298ドルとの報道もなされている。
 ただし、その割に待遇は厳しい。アップルのiPhoneのプロトタイプ機1台が紛失するという事件が起きた時には、同社の中央公安部門が25歳の従業員を厳しく尋問、更に暴行を加えてその従業員が自殺するという事件も起き、中国政府が調査に乗り出すといった事態にまで発展した。
 この問題は米国内でも話題となり、アップル社製品の不買運動が検討されたが、その後も現地の労働条件には改善の兆しが見られていないばかりか、工場の取材に赴いたロイター通信記者が警備員2人に暴行され、工場に連れ込まれそうになるという事件もあった。

 異例の誓約書まで

 昨年5月の英国デイリー・メイル紙によれば、iPadやiPhoneの製造を担当する工場で行われた調査で、それに先立つ16カ月間に少なくとも14人が労働条件を苦にして自殺した事を受け、工場勤務者に「自殺しない」という誓約書に署名させていた事も明らかになった。
 また、労働団体「SACOM」が工場勤務者に対して行った調査では、1カ月当たり36時間という法定基準はあって無きが如しで、月98時間の規定外労働を行った労働者がいた他、iPadの需要がピークに達した時期には13日に1日の休暇しか認められず、労働者同士の会話は禁止、12時間交代のシフトで勤務といった過酷な労働環境が報告されている。
 更に、労働者の寮は24人で1部屋というもので、基本的な日給は5・2ポンド(約690円)、深センや成都では、1カ月に60〜80時間の超過勤務が当たり前であるという。
 
 足りないブラジル気質理解

 これに対し、ブラジルのサンパウロ州ジュンジアイ工場では今年4〜5月、水不足や食事の質の悪さ、立錐の余地もないほど混む送迎バスなどに不満を募らせた従業員2500人が、スト入りをほのめかして労働条件の改善を求めたとの記事が続いた。
 最終的には工場側が改善を約束した事で同工場でのストは回避と5月3日に報じられたが、これ以外にも、アジア系の企業の管理職が、ブラジル人従業員を他者の面前で叱りとばし、労働問題が生じた例などもある。
 これらのストや裁判沙汰は、同じ会社でも国が違えば従業員気質も違うという事を認識していない本国からの管理職が、自国でのやり方がブラジルでも通用すると考えて行動し、とんでもないしっぺ返しが来た例だ。

 まず国民性の理解を

 それでもブラジルのフォックスコン従業員は、自分達の工場の方が中国の工場より生産性が高いと自慢。米国での会議に出席した組合員の一人が「喜んで働かなければ生産性だって落ちるさ」と言ったともいうから、労働条件への不満は中国より少ないのかもしれない。
 だが、文盲でバスの行き先が読めない人が、「今日はメガネを忘れて読めないからどこ行きかを教えてくれ」とバス停にいる人に頼むなど、自尊心に満ち、恥を嫌うブラジル人気質を理解する事は、ここブラジルでの生活術の一つだ。
 当地では勤勉で文句も言わずに働く日本人は他者に利用される事も多いといわれる。だが、当地でブラジル人を雇っていくなら、雇用主が何国人であろうが、自分達と同じように考えて上司の要求を呑んでくれると思い込んで接して、部下から煮え湯を飲まされるという失敗をしないために、国民性の違いをしっかりと認識する必要があるようだ。