ニッケイ新聞 2012年7月17日付け
「デカセギの職業能力を上げることが重要」—。厚生労働省職業安定局の派遣・有期労働対策部の生田正之部長は、CIATE(国外就労者情報援護センター)主催のデカセギ国際フォーラムに参加するために11日に来伯して翌日記者会見し、そう強調した。2008年のリーマンショックで大量の在日ブラジル人が解雇されてから3年半が経過した現状と、日本政府の対策を聞いた。
在日ブラジル人の新規求職者数はピーク時で5090人(09年2月)、相談件数は2万6281件(同年4月)を記録し、その後相談件数は09年半ば頃には1万件以下に減少した。東日本大震災後には新規求職者数、相談件数ともに若干上昇し、今年5月は求職者882人、相談件数は5千件弱だった。
経済の持ち直しにより短期の就労は元に戻りつつあるものの、「不安定雇用の構造は変わらない」という。日本語能力や職業経験が不十分なため、自力で再就職するのが困難な状況にある。
しかし、求職者は日本人とほぼ同レベルの賃金水準を希望している。月収20万円以上を希望する人が男性89・3%、女性16・5%。中には月収30万円以上を希望する男性もいるが、それには当然ながら高い日本語レベル、一定水準の職業技能が欠かせない。
しかし、現実には企業が求める日本語能力と日系人のそれとは差がある。事業所の過半数が、仕事上で必要な日本語を読める、あるいは漢字を読める能力を求めているのに対し、「これらの能力を有する在日ブラジル人は全体の約3割に過ぎない」と資料を示して語った。
厚労省ではそのような在日ブラジル人に対して09年度以降、日系人集住地域での通訳・相談業務、日本語能力向上等を図る「就労準備研修」の2事業に注力。その結果、通訳を配置したハローワークは08年度の73カ所から今年度は116カ所に、専門相談員は11人から約10倍の121人に増えた。
今後の方針として生田部長は、これまで別々に行われていた日本語能力向上支援と職業訓練を連結させ、国、都道府県、ハローワークの連携強化も進めることで「その人にあった訓練を行い、職業能力を確実に上げてもらうことが必要」との見方を示した。昨年度は介護、ホームヘルパー、金属成形、ITビジネス、機械CAD、グラフィックデザイン等13コースを実施し、135人が受講した。今年度も同規模で実施される見込みだ。
全体として「(デカセギのうち)失業している人よりは仕事についている人のほうが多い」と生田部長は印象を語るが、その多くが不安定な就労形態で働いているのが現状だ。日本の外国人労働者全体のうち派遣請負で働く人が占める割合は27%であるのに対し、ブラジル人は58・9%と高い。
日本の非正規労働者数は近年増加傾向にあり、同省ではその指針となる対策として今年3月に「望ましい働き方ビジョン」を策定している。生田部長は「日系ブラジル人は(非正規労働者の)代表選手のようなもの。独自の政策と、非正規労働者全体への対策をもって対応していく」とした。