ニッケイ新聞 2012年7月18日付け
シリア中部のタラムセ村で12日に起きた大量虐殺後、ブラジル外務省がかつてない口調でアサド政権を非難する文書を公表したが、国際赤十字は「シリアは既に内戦状態」と判断。15、16日には首都ダマスカスでも黒煙が上がり、同国の状況はますます緊張を帯びたものとなっていると14〜17日付伯字紙が報じている。
昨年初頭から始まった「アラブの春」と呼ばれる民主化運動の中、今も独裁政権が権力を握り続けているシリアの状況が変化し始めた。
12日に起きたハマ州タラムセ村での虐殺被害者は220人とも300人ともいわれ、14日に現地入りしたブラジル軍人1人を含む計11人の国連監視団が、攻撃にはヘリコプターや戦車の他、ロケット弾などの重火器が使われたと報告。国軍の攻撃後、アサド大統領に忠誠を誓う民兵「シャビーハ」が来て、政府軍を離反した兵士や反体制派活動家の家などに押し入り、住民を殺したり連行したりした他、けが人が多数いる部屋に油をまいて火を放つという暴挙も報告されている。
避難民が100人以上いた学校はヘリコプターによるロケット弾攻撃で黒く焼け、遺体で溢れていたイスラム教の礼拝所(モスク)の床にはくすんだ血痕が残る。
しかも、監視団の到着直前に政府軍の戦車が現れたため、監視団が去れば政府軍が来ると考えた住民は、村の外に逃げようとしていたという。
シリア政府は、村のテロ集団を掃討したがヘリや戦車、重火器類は使用しておらず、死者は戦闘員37人と民間人2人と発表したが、住民は反体制派の自由シリア軍の存在を否定。今回は現地に行けた監視団も、実質的な活動は首都に限定されているのが現状だ。
一方、政府軍が一般市民に重火器を使用したと知ったブラジルが「無防備な市民への攻撃を直ちに止め、国連監視団が自由に動けるようにすべし」と抗議したのは13日。
ブラジルは昨年10月の国連安保理で、欧米諸国とロシア・中国との仲介役を果たすためとの大統領判断でシリアへの制裁決議に棄権票を投じ、国際社会から避難を浴びた。6月にも「市民への攻撃を憂慮し、シリア政府が国連監視団に協力するよう懇願する」との文書を出した事から見れば、異例といえる文面だ。
一方ロシアは、安保理での制裁決議には拒否権使用と16日も再確認。中国も同様の立場で、国連の武力制裁が起きる可能性は極めて低い。
国際赤十字の「内戦」発言には法的拘束力はないが、反体制派が統率され領土の一部制圧となれば、政府軍がより破壊力のある武器や反対派の手の届かない所に移動させたという化学兵器を使う可能性も高くなる。
15、16日はダマスカスのアル・タダモンやアル・ヤルムークなど複数地区で政府軍が砲撃開始。武装ヘリが飛び黒煙が上がる様は市中央部からも観察でき、間断なく銃声が聞こえたという。