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経営厳しいブラジル人学校=篠田氏の「コレジオ」校=職業訓練コースが活路か

ニッケイ新聞 2012年8月8日付け

 2008年のリーマンショックから3年余りが経ち、愛知県名古屋市にあるブラジル人学校「コレジオ・ブラジル・ジャパン」は、2月に始まる新年度にあたり一時授業を開講できず、あやうく閉鎖の危機に見舞われた。同校長で日系二世の篠田カルロスさん=愛知県在住=にその時の顛末を中心に、在日ブラジル人学校全体の実情を聞いてみた。

 「自分ひとりの力では、もう無理だと思った」—。先月一時帰伯した折り、取材に応じた篠田さんは視線を落としてそう語った。同校は07年2月に開校したばかりだ。
 金融危機後の景気低迷で親が職を失って約3万円の月謝を払えずに生徒数が激減し、経営難に陥った。最大で85人いた生徒は、昨年末の時点で31人にまで減った。
 篠田さんは借金までして経営を続けてきた。閉校は苦渋の決断だったが、他に選択肢はなかった。閉校で居場所を失った生徒は、他のブラジル人学校や日本の公立校に転校したり、家族で帰伯するなど散り散りになり、うち10人はどの学校にも通わない、不就学の状態に陥った。
 「もう一度、子供達を勉強させたい」という10人の子供の親が篠田さんのもとを訪れ、再開を懇願した。話し合いの結果、校内の清掃を親が担うなどして経費を減らし、新入生の勧誘やバザー開催などで収入を増やすなど学校運営に保護者が関わることを条件に、今年4月に再開した。
 生徒は小学校1〜5年生の11人。3人に自閉症の症状があり、1人はポ語ができない。
 「コレジオ以外には勉強する場所がないと言われて。熱意に負けてもう一度やろうと思ったけど、どうなるか。見通しは立っていない」。
 他のブラジル人学校も軒並み同じ状態に陥っているようだ。「一時期は100校以上あったが、すでに30校以上が閉校した」と篠田さんは窮状を訴える。
 「コレジオ・ブラジル・ジャパン」はこのほど、コンピューター専門技術を教える職業訓練コースを設置する。
 これまで国外の教育機関としてブラジルの教育省が認可を与えていたのは幼稚園、小中学校、高校、スプレチーボのみだったが、そこに職業訓練コースが加わることが、今年2月の法律で決まった。篠田さん自身が6年前から法整備に向け働きかけており、その第一号として3月に設置が認められた。
 したがって今後、専門技術を教える教育機関がプログラムを作り、教育省に申請して認められた場合、その修了証明書がブラジルでも通用することになる。
 篠田さんによれば、現在日本に住むブラジル人約22万人のうち、15〜40歳の人口は10万人。約半数が働き盛りの年代だ。
 「大事なのは教育。日本にいて仕事がないブラジル人たちは、これからどうやって生きていくのか。大きな課題」と篠田さんは話す。「コレジオ」の場合、今後は職業訓練コースに、学校生き残りのための活路を見出していくことになるようだ。